8月15日、TNWが「Pax Silica: US tells 35 countries to pick a side on AI」と題した記事を公開した。米国が35カ国に陣営選択を迫る外交文書「Pax Silica宣言」の草案がリークされたというものだが、この文書が作成された直接のきっかけとして挙げられているのがカザフスタンの動きだ。同国は米国主導のPax Silicaに加盟した後、中国のフレームワークにも署名した——両陣営に同時加盟した唯一の国として確認されており、これがワシントンに強い警戒感を与えた。宣言の実効性そのものが、早くも試されている。
「どちらかを選べ」——米国が35カ国に送った文書
Reutersが8月14日、米国当局者と内部文書を引用して報じた内容によると、米国が35カ国に宛てた外交文書の草案が存在する。送り先は、今年6月に署名された米国主導の「AI機会声明(AI Opportunity Statement)」の署名国だ。
文書の言い回しは、外交文書にしては珍しく直截的だ。
「すべてに属することは、何にも属さないことだ(To be part of everything is to be part of nothing)」
Pax Silica宣言への署名は「単なる会員登録ではなく、コミットメントだ」とも明記されている。国務省はこの文書について「リークされたとされる内部文書にはコメントしない」と述べており、文書の存在を公式に認めていない。草案は日付未記入で、いつ送付されるかも不明だ。
Pax Silicaとは何か
米国が昨年立ち上げたフレームワーク。AIモデル・半導体・重要鉱物というサプライチェーン全体を同時に押さえることを狙っている。
現時点で約24カ国が参加済みとされ、Reutersは日本・オーストラリア・韓国・カザフスタンの名を挙げている。参加国はAIプロジェクトへの共同投資機会へのアクセスと、輸出管理の調整という実利を得る。
一方、今回の文書が送られる「AI機会声明」署名国35カ国は、より緩やかな関係だ。「共通の目的」と「共有のビジョン」に象徴的に合意した段階にとどまっており、法的拘束力はない。米国はこのギャップを今回の文書で埋めようとしている。
事態を動かしたのはカザフスタン
この文書が作成された直接のきっかけは、カザフスタンだ。
カザフスタンは6月にPax Silicaへ加盟した。国務省のJacob Helberg次官補は「中央アジア初の加盟」として公式に歓迎した。同国が先端チップに不可欠な重要鉱物の大規模埋蔵量を持つことが、その理由だ。
ところが同国はその後、中国のフレームワークにも署名した。両陣営に同時加盟したことが判明した唯一の国であり、これがワシントンで警戒感を高めた、とReutersは報じている。
中国はすでに関税戦争の報復手段として希少鉱物の輸出制限を行使した実績がある。供給国が両陣営の間で立ち回る状況は、Pax Silicaが防ごうとしていた事態そのものだ。カザフスタンの動きは、「コミットメントを求める」という宣言の文言が実態として機能するかどうかを早くも問い直している。
対抗軸:習近平が7月に立ち上げた組織
対抗する枠組みは発足からまだ1カ月足らずだ。習近平は7月の上海での会議で世界人工知能協力機構(World Artificial Intelligence Cooperation Organization)の設立を発表し、中国のオープンウェイトモデルを米国の影響力への代替として売り込んだ。
両陣営が提供するものの性質は異なる。Pax Silicaが「投資アクセスと輸出管理の共有」を提供するのに対し、北京が提供するのは「ダウンロードできるモデル」だ。
ただし中国側の「オープン」も額面通りではない。Reutersは7月、北京が自国の主要AIモデルへの海外アクセスを制限する方向で検討中と報じている。どちらの陣営も、どこまでアクセスを与えるかを模索中だ。
文書が「中国」という言葉を使わない理由
草案は中国を名指ししていない。代わりに「我々の期待と相容れない重複するイニシアティブ」という表現を使い、読み手に名前を補わせる構造だ。
Reutersの取材に応じた匿名の米国当局者は、より率直に語った。
「両方を取ることはできないと明確にするために起草した。一方の技術エコシステムで信頼できるパートナーとして自国を位置づけながら、同時に中国が競合するビジョンを推進するために設計したイニシアティブに署名することはできない」
業界動向と国内の分断
この動きには業界の変化が重なっている。Hugging FaceのCEOは今月CNBCに対し、中国のオープンモデルがダウンロード数の**41%**を占め、オープンモデル競争でリードしていると述べた(関連記事)。
米国内も一枚岩ではない。NvidiaなどはOpenAIやAnthropicとは異なり、オープンウェイト推進の立場を取っている(関連記事)。規制の締め付けも並行して進んでいる。商務省は中国がNvidiaチップへのリモートアクセスを通じてどう入手しているかを調査中で、財務長官は中国のAI企業への制裁を示唆している。
反論と第三の立場
中国アナリストのRui MaはX上で(TNW記事が引用)、この文書は得るものより失うものが多いと論じた。
「世界は、一方がサプライチェーンとアクセス制限を武器化するのを見ている。もう一方はオープンな技術と広いアクセスを推進している。同盟は永続しないし、インセンティブは変わる」
また別の開発者コミュニティからは「どちらの陣営にも依存せず、自国でシステムを構築すべきだ。依存は経済のスイッチを他者に渡すことになる」という声も上がった。ただしこれは、言うは易く資金調達は困難だ、とも記事は指摘している。
注目すべき3つの「まだわからないこと」
記事は最後に、今後の焦点として3点を挙げている。
- 文書が実際に送られるか — 草案であり、日付もなく、国務省は存在を認めていない
- カザフスタンがどう動くか — 重要鉱物を持つ唯一の「両陣営加盟国」として、この文書の実効性を試すテストケースとなる
- 35カ国の完全なリストが公開されるか — 現時点では加盟国は個別に発表されており、誰が選択を迫られているのかワシントン外部には見えていない
欧州の不在も目を引く。Reutersが名指しした加盟国に欧州の国は含まれておらず、ブリュッセルはこの1年、米中いずれかへの選択ではなく独自路線(Made in EU規則など)の構築に注力してきた。バイナリな選択を求める文書が欧州各国に届いているかどうかも注目点だ。
詳細はPax Silica: US tells 35 countries to pick a side on AIを参照していただきたい。