8月15日、Futurismが「AI's Impact on the Environment Is Absolutely Horrifying, New Paper Finds」と題した記事を公開した。AIが化石燃料産業を後押しすることで生じる環境負荷が、データセンターの直接排出量をはるかに上回るという新論文の知見を詳しく紹介している。
データセンターの話だけでは済まない
AIの環境問題といえば、データセンターの電力消費や冷却コストに焦点が当たりがちだ。しかし、Nature系列のオープンアクセス学術誌 NPJ Climate Action に掲載された新論文は、その議論が「氷山の一角」に過ぎないと指摘する。
論文を主導したのは、元Microsoftのマネージャーで現在は持続可能性研究者として活動するWill Alpine氏とHolly Alpine氏の夫妻だ(両氏の肩書きはFuturism記事および気候ニュースレター HEATED の取材より)。両氏の結論は明快である。
AIが化石燃料企業に与える生産性向上の恩恵は、再生可能エネルギー分野でのAI活用による排出削減効果を大幅に上回っている。
論文の核心にあるのは、「AIが何を動かすか」という問いだ。データセンターが消費する電力量ではなく、AIが社会全体の生産活動をどう変えるかを問わなければ、気候影響の全体像は見えてこない、と著者らは主張する。
「有効化された排出量」という見えにくい問題
論文が中心概念として据えるのが「enabled emissions(有効化された排出量)」だ。これは、ある技術の導入によって新たに可能になった活動から生じる排出量を指す概念で、技術の直接排出量とは区別される。たとえば、AIが油田の掘削効率を30%高めれば、その増産分に伴う燃焼・採掘排出量がenabled emissionsに相当する。
Alpine夫妻の分析では、AIブームがもたらす化石燃料由来の排出量増加は、データセンター自体が排出する量の3〜13倍に達する可能性があるとされる。この幅は楽観シナリオと悲観シナリオの差を反映しており、最大13倍という数値は、AIによる石油・ガス生産の効率化が大規模かつ広範に進行し、かつ再生可能エネルギー側でのAI活用が相対的に限定的にとどまる場合のシナリオに対応する。逆に下限の3倍は、グリーンエネルギー分野でのAI導入が積極的に進んだ場合でも、化石燃料側の恩恵がそれを上回るという推計だ。
「『AIの真の気候影響』をめぐる議論が、運用時の排出量だけで止まってしまうのを見るのは、つらく、もどかしい。AIが何のために使われているかを議論に含めることが、どれだけ重要かを伝えきれない」
— Holly Alpine氏(気候ニュースレター HEATED より)
従来の分析は「データセンターのエネルギー需要」「再生可能エネルギーの最適化」「需要側の効率化」に集中しており、AIが化石燃料の供給経済をどう変えるかへの目が足りなかった、と論文は指摘する。
AIと石油・ガス産業の深い結びつき
論文が問題視するのは、テック大手が化石燃料産業と結んでいる「AIによる生産拡大支援」の構造だ。以下の事例は、その文脈で提示されている——すなわち、AIが石油・ガス企業の掘削・生産効率を直接高めるツールとして導入されている実態を示す事例である。
- MicrosoftとChevronが20年契約で大規模ガス発電所プロジェクトを推進(TechCrunch報道)
- Amazonが米国最大の化石燃料プラントを建設中(Heatmap報道)
なお、MicrosoftとChevronの契約はAIデータセンターへの電力供給を目的としたものであり、直接的にAIが掘削を効率化する契約とは性質が異なる点には注意が必要だ。論文が問題視するのは、こうした需要拡大がガス生産そのものを下支えし、化石燃料産業の事業継続・拡大を正当化する構造にある。
Holly Alpine氏はこう語る。
「テック企業には、化石燃料産業を明示的に担当するエンジニアとセールス担当者のチームがある。石油メジャーと連携しながら生産拡大のためのコードを書くエンジニアたちだ」
グリーンエネルギー側でのAI活用と比べると、石油・ガス産業へのAI浸透のスケールは現時点で桁違いだ、というのが著者らの見立てだ。
「ガードレール」を求める声
Alpine夫妻は、データセンターへの反対運動を続けることは依然として重要だとしながらも、それだけでは不十分だと主張する。AIが「気候にとってマイナスの未来」へと社会を押しやるのを防ぐため、enabled emissionsを含めた排出量全体に対するより厳しい「ガードレール(規制・制約)」が必要だと訴えている。
AIの環境問題は、電力消費量の議論から、「そのAIが何に使われているか」という問いへと移行しつつある。インフラ整備を担うエンジニアや、石油・ガス向けソリューションを開発する開発者にとっても、無関係ではいられない話だ。
詳細はAI's Impact on the Environment Is Absolutely Horrifying, New Paper Findsを参照していただきたい。