8月14日、BleepingComputerが「AI 'watermark removers' flood the web. Almost none can prove they work.」と題した記事を公開した。AnthropicがClaudeの出力に透かしを導入した直後から「透かし除去ツール」が乱立しているものの、その大半が実際には機能を証明できていない実態について詳しく報じている。
透かし除去ツールが乱立、だが検証手段がない
2026年8月2日にEU AI法第50条が施行された。同日以降、Anthropicは新たにリリースしたモデルが生成するテキストに、知覚不可能な透かし(ウォーターマーク)を埋め込むようにした。違反した場合のペナルティは**最大1,500万ユーロまたは全世界売上高の3%**という規模だ。
Anthropicのサポートページによれば、透かしはAPI・claude.ai・Claude Code・Claude for Work・Claude Tagを経由したすべての出力に適用され、AWS・Google Cloud・Microsoft Foundryを通じた利用も対象となる。また、テキストの透かしに加え、対応ファイル形式にはC2PA署名メタデータも付与される。
この動きに即座に反応したのが開発者コミュニティだ。Anthropicの発表からわずか数日で、透かし除去を謳うツール群がGitHubとウェブ上に大量出現した。
主なツールとその実態
最も注目を集めているのが、ソフトウェア開発者Guillaume Meyerによるwatermarks-remover(MITライセンス、スター数4,500超)だ。当初はClaude専用として始まり、現在はGemini・SynthID-Text・OpenAIの出所情報面・Kirchenbauer方式の透かしを使うオープンウェイトモデルへの対応も謳っている。
Meyerの投稿はX(旧Twitter)で200万ビュー超を記録した。
watermarks-remover now supports watermarks from OpenAI and Gemini in addition to Claude.
— Guillaume Meyer (@guillaumemeyer) August 11, 2026
他にもclaude-watermark-cleaner・remove-ai-watermarks・noai-watermarkといったリポジトリや、claudewatermark.com・claudewatermark.rip・gptcleanup.com・claudewatermarkremover.appといったウェブサービスが続々と登場している。AI検出回避サービスのStealthGPTも透かし除去機能を追加し、Human Writesは大学のレポートでTurnitinやGPTZeroを回避すると宣伝している。
ツールが実際にやっていること、そして「本体」には誰も触れていない
元記事が指摘する核心はここだ。これらのツールが行っている処理は大きく3種類あり、実際に機能するのはそのうち2つだけである。
不可視文字の除去:ゼロ幅文字・双方向制御文字・Unicodeタグ文字などを削除する。これは機能するし、検証もできる。
ファイルメタデータ(C2PA・EXIF・XMP)の除去:PNG・JPEG・PDF・DOCXなど対応ファイル形式から署名データを削除する。これも技術的には機能するが、「再保存・フォーマット変換・スクリーンショット」のいずれかで元から消えるため、特段の成果とは言いがたい。
テキスト透かし本体の除去:これが最も難しく、現時点では誰にもできていない。
透かしは隠し文字の中にあるのではなく、「モデルがどの単語を選んだか」という選択パターン自体に埋め込まれている。除去する唯一の既知の方法は、別モデルでテキスト全体を書き直すことだ。Meyer自身も珍しく率直にこれを認めており、現時点で自分のツールが除去できるのはメタデータのみで、透かし本体への対処は将来の課題だとポストしている。さらにREADMEでは「書き直せば結局、高価なモデルの出力を安価なモデルの出力で置き換えることになる。それで何の意味があるのか」と問いかけている。
一方、商用サービスの多くはより踏み込んだ謳い文句を掲げている。しかし彼らがスコアとして提示しているのは通常のAI検出器に対する結果であり、Anthropicの透かし検出器は公開されていないため、誰も本当の意味での検証ができない。
独立した調査でも欠陥が確認されている。Pasquale Pilliteriはリポジトリのコードを直接読み込み、あるツールが「最も一般的な隠しペイロード技術」を素通りさせていることを発見した。ツールが「除去した」とされた後も、ペイロードはそのままデコードできた。
Anthropic自身が認めているように、透かしが検出されても、それはそのテキストがClaudeによって処理されたことを示すに過ぎず、Claudeが書いたことを意味しない。自分の文章をClaudeに文法チェック・翻訳・要約させるだけで、出力には透かしが付く。また大幅な編集・言い換え・翻訳によって透かしは消えるとも説明されている。こうした限界を踏まえると、除去ツールが狙う「本体」そのものの意義も問い直す余地がある。
警戒すべきポイント:エージェントパイプラインへの組み込みと未検証コード
セキュリティ観点から見て見逃せないのが、watermarks-removerの配布形態だ。このツールはエージェントスキルとして設計されており、ローカルのスキルフォルダにシンボリックリンクを張ってスラッシュコマンドで呼び出す形式で動作する。スコアリング機能のセットアップ時にはサードパーティのリポジトリをクローンし、約220MBのアーティファクトを取得する。
4,500超のスターで示された旺盛な需要と、誰も主張を検証できない状況の組み合わせは、次の波を呼び込む土壌になる。現在存在するプロジェクトはオープンソースで読めるが、ライセンス表記すらないものも含まれている。この市場に次に参入してくるツールが同様に透明性を持つ保証はない。
X上での反応も辛辣だ。ユーザーのEmad Ghorbaniniaは透かしを「コンプライアンスのチェックボックスであって、本物の防御手段ではない」と評し、Meyerも「EU市場に残るための純粋なコンプライアンス対応だ」と同調した。
BleepingComputerは本記事内で取り上げたいずれのツールも監査・テストしていないと明記している。インターネット上の未検証コードと同様の注意を払うべきだ。
詳細はAI 'watermark removers' flood the web. Almost none can prove they work.を参照していただきたい。