8月12日、The Next Webが「Trained on you': Musk says SpaceX AI will out-earn rockets」と題した記事を公開した。SpaceXの全社会議でイーロン・マスクがAI収益はロケット事業を超えると宣言し、Grokを社員データで学習させる方針を明らかにしたという内容だ。
「9月にはAI収益がその他すべてを超える」
SpaceXは8月12日(火)、約30分の全社会議の映像をXに投稿した。マスクはそこで2つの主張を展開した。
まず数字から見ていく。The Next Web記事がBusiness Insiderの報道を引用する形で伝えるSpaceXの第2四半期売上は78.1億ドルで、その内訳はAIが25.6億ドル、衛星通信(Starlink等)が42.9億ドル、宇宙事業が9.62億ドルとされる。AI以外の合計は52.5億ドルとなる計算だ。なお、これらの数字はSpaceX自身が公式に発表したものではなく、報道ベースの数字である点は留意が必要だ。
マスクが「9月までにAIがその他すべてを超える」と宣言するということは、AI収益がほぼ倍増しなければならない計算になる。発言の中でマスクは自分自身の言葉を訂正する場面もあった。「おそらく、ではなく——確実に」。さらに第4四半期には「大きく上回る」とも述べた。
この主張が検証可能な点は重要だ。6週間後に決算が出れば、数字が52.5億ドルを超えたかどうかは白黒つく。月面工場のような話と違い、期限が明示されている。
「社員のデータでGrokを学習させる」——何が問題か
もう一つの主張が波紋を呼んでいる。
「SpaceXに関するあらゆる情報の総体でGrokを学習させる」とマスクは述べた。続いてこの言葉が独り歩きすることになった。「ある意味で、それはあなたたち自身を学習データにすることになる(trained on you)」。
マスクはこれをデータ収集ではなく、安全性の確保として位置づけた。SpaceX社員は「地球上で最も優れた人間の集まり」であり、彼らのデータで学習したモデルは良識ある価値観を受け継ぐ——という論旨だ。「あなたたちはAIの親になる。あなたたちの考え、アイデア、信念を引き継ぐ。それは良いことだと思う」とも語った。
問題は、肝心な詳細が一切明かされていないことだ。どの社員データを使うのか、どのように収集するのか、社員は拒否できるのか——SpaceXはいずれも説明しておらず、取材に対してもコメントを返していない。
類似の事例として、Metaが2025年4月に社員のキーストロークやマウス操作を記録してAI学習に使う試みを開始し、6月に停止した件がある。プライベートな会話や人事評価データが社内全体で閲覧可能になっていたことが判明したためだ。SpaceXの計画がどう運用されるかは、現時点では不明なままだ。
なぜ「社員データ」が必要なのか
背景にあるのは、AI業界全体が直面するデータ枯渇の問題だ。インターネット上の公開データはすでに使い尽くされつつあり、各社が求めているのは「人間がコンピュータ上で実際にどう作業するか」を示すデータだ。これはAIエージェント——自律的にアプリを操作してタスクを完遂するシステム——の学習に直結する。
この全社会議と同日、xAIはGrok Bot(公式リリース)を発表している。xAIはSpaceXが統合・改称した後の社名であり、詳細は後述する。Grok Botはクラウド上の仮想マシンを持ち、アプリにサインインして複数ステップの作業を自律的にこなすエージェントだ。同僚のように働くものを学習させるには、同僚が働く様子を記録したデータが必要になる。
つまり2つの発表は表裏一体だ。収益目標にはエージェント製品が必要で、エージェント製品には学習データが必要で、その学習データは社員から得る——という構造になっている。社員データの活用が単なる福利厚生的な語り口で包まれている一方で、その構造的必然性はむしろ事業戦略の側に根ざしている点は見落とせない。
SpaceXAIの現在地
SpaceXはxAIを統合し、6月の上場前後に社名をSpaceXAIへ改称した。上場後初の決算ではAIが売上の約3分の1を占めた。本記事で前半から登場する「SpaceXAI」という名称は、この改称後の社名を指している。
現在の動きを並べると、コードエディタのCursorを600億ドルで買収予定、NVIDIAハードウェアへの大規模投資、軌道上データセンターの計画と、AIインフラへの投資が続いている。Grok Botの発表もこの流れの中に位置づけられる。単なる製品リリースにとどまらず、エージェント市場への本格参入を宣言するものだ。社員データの活用計画はそのための学習データ調達戦略として読むのが自然だろう。
ただし、Grok自体の性能面では課題もある。主要ベンチマークでOpenAIやAnthropicに後れを取っている状況は、AI収益を主軸に据える戦略と矛盾をはらむ。また、かつて「Wikipediaを超える」と宣言されたGrokipediaは、4月以降更新が止まったまま放置されている。宣言と実態のギャップは、今回の全社会議での発言を評価するうえでも念頭に置いておく必要がある。
9月の収益発表は数字で答えが出る。社員データの問題については、今のところ期限も説明もない。
詳細はTrained on you': Musk says SpaceX AI will out-earn rocketsを参照していただきたい。