8月11日、Matt Fosterが「JetBrains Details Its First Steps to Bring Rapidly Growing AI Spend Under Control」と題した記事を公開した。JetBrainsでは、AI関連支出がわずか6ヶ月で約10倍に膨らんだ。その対応として同社が選んだのは、ツール選択の自由を維持しながらコストを制御するための「共通アクセス層」の構築だ——多くの企業が採用する「ツールの絞り込み」とは一線を画すアプローチである。
6ヶ月で10倍——AIコストが爆発した現実
JetBrainsの開発者の多くは、毎月3〜5種類のAIツールを使い分けていた。2026年1月以降、高性能なフロンティアモデルの利用拡大とともにトークン消費量が急激に増加し、AI関連支出はわずか半年で約10倍に膨らんだ。
(※元記事に具体的なモデル名のバージョンは明示されていないため、以前の原稿で記載したモデル名「Claude Opus 4.5・4.6」は削除している。)
問題はコストの可視化だった。ツールが分散しているため、どのプロバイダに何を払っているかを把握するため、最初は4日間かけてスプレッドシートに手作業でデータを集めるという状況から始まった。その後、プロバイダAPIと社内ダッシュボードを整備し、リアルタイムの支出状況と予測値を確認できるようにした。
しかし可視化できても、介入する手段がなかった。各ツールはそれぞれのプロバイダに直接リクエストを送っており、ダッシュボードは「見るだけ」の存在にとどまっていた。コストを把握できることと、コストを制御できることの間には、大きな隔たりがあった。
解決策は「制限」ではなく「共通の制御層」
他社の動向と比べると、JetBrainsのアプローチの特徴がよく分かる。
- Accenture:不要なAI利用を自粛するよう従業員に指示
- Uber:年間AI予算を4ヶ月で使い切ったため、月間上限を導入
- 多くの組織:承認済みツールを1〜2種類に絞る
JetBrainsはこれらとは異なる選択をした。ツールを制限するのではなく、アクセスの共通インフラを整備するという方向だ。ツール制限を避けた理由として「市場の変化が速く、数ヶ月後にどのツールが最適かも分からない」という点が挙げられており、開発者の生産性を損なわずにコスト管理を実現しようとする姿勢が見える。
社内の1人の開発者が作った内製ツールを発展させたCentral CLI(セントラルCLI)がその中核となる。これは自社製・サードパーティ製を問わず、AIツールを統一的な方法で呼び出せるコマンドラインインターフェースだ。CLIを経由したリクエストは、JetBrainsが既存のAIプラットフォーム経由でルーティングされる。これにより、プラットフォームの役割が「事後の支出確認」から「トラフィックへの参加」へと変わった。
この共通制御層によって実現したことは以下の通りだ。
- 既存のAIクレジットシステムをサードパーティツールにも適用可能に
- マネージャーが開発者個人・チーム・組織単位で支出の確認と上限設定が可能に
- 開発者はツールを自由に選び続けられる
数週間で1,000人以上が採用
Central CLIはリリースから数週間で1,000人以上の開発者が採用した。ただし、現時点ではすべてのAI支出をカバーしているわけではない。ターミナルベースのエージェントや個人契約のサブスクリプションは管理経路の外に残っており、チーム間のAI予算の公平な配分ポリシーも引き続き検討中だ。
段階的な導入にとどまっている点は率直に認められており、「完成した解決策」としてではなく「進行中の取り組み」として紹介されている点も、この記事の誠実さと言える。
「FinOps」としてのAIコスト管理
この問題はJetBrainsだけのものではない。FinOps Foundationは生成AIをFinOps(クラウドコスト最適化の実践)の管理対象として位置づけ、AIの利用状況とコストを集中管理するアプローチを推奨している。FinOpsはもともとクラウドインフラのコスト管理手法として広まった概念だが、AI支出の急増を受けてその適用範囲が拡大しつつある。トークン消費量の予測困難さや、モデルごとの単価差が大きいことが、AI支出管理を従来のSaaS管理よりも複雑にしている要因として指摘されることが多い。
JetBrainsの事例が示すのは、ツール選択の自由とコスト管理の両立が、技術的には実現可能であるという一つの答えだ。Central CLIのような共通制御層を社内に設ける発想は、同様の課題に直面している組織にとって参考になるアプローチと言える。
詳細はJetBrains Details Its First Steps to Bring Rapidly Growing AI Spend Under Controlを参照していただきたい。