8月8日、Keith Kirkpatrickが「Salesforce's Agentic Enterprise Index: A Paradigm Shift in AI Deployment」と題した記事を公開した。CRM市場で34%超のシェアを誇るSalesforceが、AIプラットフォーム市場ではMicrosoftの20分の1以下のシェアにとどまるという鮮烈な対比を軸に、SalesforceのAgentic Enterprise Index 2026が示す企業のAIエージェント導入実態と、競合との市場競争の構図が詳しく論じられている。
エージェント数3倍、作成時間53%短縮——数字で見る導入加速
Salesforceが2026年に発表したAgentic Enterprise Indexによると、組織が運用しているAIエージェントの数は前年比で約3倍に増加し、エージェントの作成にかかる時間は53%短縮された。小売分野ではAIエージェントの導入によってオンライン売上が4倍に成長したというデータも示されている。
導入戦略には業種による二極化も見られる。消費者向け業種では高頻度・タスク特化型のエージェントが主流である一方、製造業などの複雑な領域では複数ステップをこなす汎用型エージェントが優先されている。
AIの成熟度に関しては、68%の組織がGenAI Stage 3(最適化)以上に達しているとSalesforceは報告している。GenAI Stage 3とは、AIの活用が試験的・部分的な段階を超え、業務プロセスへの統合と継続的な最適化が組織全体で進んでいる成熟度段階を指す。Futurum Researchの独自調査(AI Platforms Decision Maker Survey)でも30.5%が最適化段階、24.3%が標準化段階、13.3%が変革段階にあるとされており、数値の傾向は一致している。
なお、このFuturum Research調査はn=820のエンタープライズ意思決定者を対象としたものである。調査対象の国・地域や実施時期の詳細は元記事には明示されていないが、エンタープライズソフトウェア購買者を中心とした構成であることが記事中で示されている。
信頼性とセキュリティ——導入拡大の最大の壁
エージェント数が急増する一方で、課題も明確になっている。Futurum Researchの調査では、55%の組織が「信頼性とハルシネーション管理」を最大の導入課題として挙げており、53%が「プライバシー・セキュリティ懸念」を続けて挙げた。
エージェント型AI固有のリスクとしては、セキュリティ・データプライバシーの脆弱性が最大の懸念(24%)となっており、「重要な意思決定に対する人間のコントロール喪失(16%)」「統合の複雑さ(16%)」が続く。エージェントが自律的に動作する性質上、従来の生成AIとは異なるガバナンスの枠組みが求められる。信頼性とセキュリティへの対応が、事実上の競争差別化要因になりつつある。
Salesforce vs. Microsoft——CRMの王者がAIプラットフォームで劣勢に
市場シェアの観点から見ると、SalesforceのポジションはCRMとAIプラットフォームで大きく異なる。
CRM市場ではSalesforceが34.1%(2025年売上296億ドル) と圧倒的な首位を維持している。Adobe(6.7%)、Microsoft Dynamics(5.4%)、HubSpot(3.5%)などを大きく引き離す。
一方、AIプラットフォーム市場ではSalesforceのシェアはわずか0.6%(6億8,800万ドル)にとどまる。Microsoftは12.4%(137億ドル)と桁違いの規模を誇り、ServiceNow(13億5,000万ドル、1.3%)やSAP(7億6,100万ドル、0.7%)にも後れを取っている。CRMでの圧倒的な地位と、AIプラットフォームでの出遅れという非対称な構図が、Salesforceの今後の戦略的課題を端的に示している。
AIエージェントの「配信モデル」についても興味深いデータがある。Futurum Researchの調査(Enterprise Software Decision Maker Survey、n=833)では、43%の企業が生成AIを「自律型AIエージェント経由」で提供されることを期待しており、「コパイロット/ユーザー指示型アシスタント」を好む31%を上回った。これはSalesforceが推進するAgentforce(エージェントファーストのAIプラットフォーム)の方向性を支持するデータである一方、Microsoft CopilotはAIプラットフォームの膨大な既存ユーザー基盤を武器にしている。
ServiceNowのAIプラットフォーム収益はCAGR(複合年間成長率:毎年一定の割合で成長した場合の年平均成長率)182.5%(2022〜2025年) と猛烈な勢いで拡大しており、Salesforceの同期間92.8%を大幅に上回る。Futurumはこれが将来的なCRM市場の勢力図に影響を与える可能性があると指摘している。
SalesforceはAgentforceを「エージェント型エンタープライズのオペレーティングシステム」と位置付け、APIファーストのアーキテクチャで自律的なワークフローのオーケストレーションを図っている。
ベンダースイッチングの現実
63%の企業が既存ベンダーの切り替えを積極検討、または市場状況次第で切り替えを検討していると回答しており、AIプラットフォームの優位性がその判断の重要なトリガーになっている(潜在的なスイッチャーの48%が「優れたAI機能のアピール」を切り替え理由として挙げる)。
また、73%のエンタープライズソフトウェア購買者がエージェント型AIをトップの技術優先事項として挙げており、各ベンダーはこの領域での差別化を急いでいる。
今後の注目点
記事はいくつかの構造的な問いを残している。第一に、Microsoft Copilot vs. Salesforce Agentforce vs. ServiceNow AI Agentsという三つ巴の「デジタルレイバーのOS」争いで、既存ユーザー基盤の大きさと成長速度のどちらが優先されるかという点だ。第二に、信頼性懸念(55%)やセキュリティ懸念(24%)が根強い中で、ガバナンス機能の充実が実際の導入選定において競争優位に結びつくかどうかという問いがある。そして第三に、43%がエージェントファーストを支持するというトレンドが持続するならば、Salesforceがそれをシェア拡大に転換できるかが問われる。CRM市場での支配力をAIプラットフォームへのレバレッジとして活用できるか——Agentforceの真価が問われる局面が続く。
詳細はSalesforce's Agentic Enterprise Index: A Paradigm Shift in AI Deploymentを参照していただきたい。