8月8日、Website Specが「_for-sale DNS records · Website Spec」と題した記事を公開した。ドメインの売却意思をDNSのTXTレコードで機械可読に示す新仕様「_for-sale」の詳細を解説している。
ドメインを売りたいオーナーが直面する問題は根深い。サイトをパーキングページに差し替えればトラフィックをすべて捨てることになり、WHOISの連絡先にコールドメールを送っても2023年以降のプライバシー保護強化でほぼ届かない。ブローカー経由では手数料がかさみ、そもそも買い手が「このドメインは売却可能なのか」を調べる標準的な手段が存在しなかった。_for-saleはこのギャップを埋めるために策定され、RFC 10023(Informational、2026年7月)としてIANAに登録されたDNSのアンダースコアラベル名として標準化されている。
サイトを止めずに「売れます」を伝える
_for-saleの核心は、サイトをそのまま動かしながら売却意思を示せる点にある。_for-sale.example.comにTXTレコードを1行追加するだけで、ブローカーや自動ドメイン監視サービスが通常のDNS解決の延長線上でその情報を取得できるようになる。ホームページはそのまま配信され、メールも届き続け、エンドユーザーには何も見えない。
_for-sale IN TXT "v=FORSALE1;furi=https://example.com/for-sale"
WHOISやRDAPが「登録済みかどうか」を返すのに対し、_for-saleは「登録済みだが購入可能」という全く別の情報を伝える。この情報を機械可読な形で標準化したことが仕様の存在意義だ。
なお、Website Specは個人・コミュニティ主導のウェブ標準策定プロジェクトで、DNS・セキュリティ・メタデータ等の分野でRFC準拠の仕様を公開している。_for-saleはその「Foundations」カテゴリに属する仕様の一つだ。
レコードの構造
レコードは必須のバージョンタグと、1レコードにつき最大1つのtag=valueペアで構成される。
| タグ | 意味 | 例 |
|---|---|---|
ftxt= |
人間可読なフリーテキスト | ftxt=Serious offers only |
furi= |
連絡先・情報URI | furi=mailto:hq@example.com |
fval= |
希望価格(ISO 4217通貨コード+金額) | fval=EUR2500.00 |
fcod= |
ブローカー等との事前合意コード(Base64等でエンコードされた不透明な識別子) | fcod=XX-aHR0cHM... |
価格と連絡先URIを両方伝えたければ、同じRRset(リソースレコードセット)に2つのレコードを置く。SPFのように値を連結する設計ではない。
; 価格を示す場合(大文字通貨コード+金額)
_for-sale IN TXT "v=FORSALE1;fval=USD12500"
; 連絡先URIを示す場合
_for-sale IN TXT "v=FORSALE1;furi=https://example.com/fs?d=eHl6"
実装で外せないルール
バージョンタグは必須かつケースセンシティブ。 v=FORSALE1;で始まらないレコードは有効とみなされない。DNSワイルドカードが偶然このノード名に展開した無関係なTXTレコードと区別するための設計だ。
1レコードにつきタグは1つ。 "v=FORSALE1;fval=EUR2500;furi=https://…"のように複数詰め込むのは仕様外となる。
TTLは3600秒以下に保つ。 売却済みのドメインや取り下げた価格を示す古いレコードが残り続けるのは、レコードがない状態より有害だ。
売却が終わったら必ず削除する。 「売らない」を表す値は仕様に存在しない。レコードの「不在」が「売らない」を意味する唯一の方法だ。
また、DNSSECによる署名が強く推奨される。署名のないTXTレコードに価格や連絡先URIが書かれていれば、第三者に偽造される余地が十分にある。
設定後の確認は以下のコマンドで行える。
dig +short TXT _for-sale.example.com
応答がv=FORSALE1;で始まり、1ペアのみ含まれていれば正しい実装だ。TTLの確認はdig TXT _for-sale.example.com | grep _for-saleで行える。
読み取り側のセキュリティ
_for-saleレコードを読み取って表示するツール・サービス側にも注意点がある。ftxt=はアタッカーが制御できるテキストであり、furi=はアタッカーが制御できるURIだ。RFCの例示コンテンツに<script>...</script>が明記されているように、表示前のサニタイズとfuri=への自動遷移の禁止(明示的な確認ステップの実装)がRFC自身に規定されている。
さらに、fval=の希望価格はあくまで参考値であり、購入コミットメントではない。RFCはプロセッサに免責事項の表示を義務付けており、ドメイン監視ツールやブローカープラットフォームがこの仕様に対応する際は見落とせない点だ。
詳細は_for-sale DNS records · Website Specを参照していただきたい。