8月6日、Runtime Wire(runtimewire.com)が「Naomi Bashkansky left OpenAI for Conduit's telepathy bet」と題した記事を公開した。OpenAIのアライメント研究者がBCIスタートアップのConduitに転じた経緯と、同社の技術的アプローチを詳しく紹介している。
OpenAIのアライメント研究者がBCI企業へ
「部屋が少し寒く感じた」という思考が、脳波から「そよ風、穏やかな突風のような」と読み取られる——これがConduitの現在地だ。完璧なマインドリーディングには程遠い。それでもNaomi BashkanskyはOpenAIを辞め、この賭けに乗った。
時系列を整理しておくと、Bashkanskyは7月23日にOpenAIを退職し、翌7月24日にConduitのファウンディングリサーチャーとして参加した。8月5日のXへの投稿でこの転職を公表し、Conduitが「非侵襲的に人間の脳を読み取る」モデルの訓練に取り組んでいると説明した。なお本記事が参照するRuntime Wireの報道は8月6日付である。
BashkanskyはOpenAIのアライメントチームに約18ヶ月在籍し、AGIオンボーディング資料の作成やアライメント研究ブログの運営、OpenAI財団のAI Resilience部門への助言なども担当していた。ハーバード大学でコンピュータサイエンスを学び、チェスのWoman International Masterランクを持つという経歴の持ち主だ。
転職の動機として、OpenAIでの研究が「確立されたアーキテクチャの中で大きな技術課題の一部分だけを扱う仕事」だったと語った。Conduitでは、ニューラルエンコーダ、合成データ、マルチモーダル学習、データ効率といった幅広い未解決問題に取り組めることが魅力だったという。
「テレパシー」を目標として掲げ、数年以内に思考がAIとのインタラクションの主要手段になると予測している点は強気だ。
ConduitのアプローチはLLMのスケーリング則をBCIへ適用する賭け
Conduitの技術的な核心は、言語モデルで成功したデータ規模戦略を神経インターフェースに転用する点にある。
同社は2025年12月の技術ブログで、6ヶ月間で数千人の参加者から約10,000時間の神経・言語データを収集したと発表した。参加者はサンフランシスコのオフィスで2時間のセッションを行い、独自開発のマルチモーダルヘッドセットを装着しながらAIシステムと対話した。訓練用のヘッドセットは約4ポンド(約1.8kg)と、データ収集密度を優先した設計で、日常使用向きではない。
ポイントはクロスパーソン汎化(cross-person generalization)だ。新たなユーザーに対して脳手術や個別のキャリブレーションなしでデコーダが機能することを目標としている。参加者1人あたり最大10セッションに制限することで特定の被験者に偏らないデータセットを構築しており、2024年12月時点ではリソースの95%以上をモデル訓練に充てているという。
Bashkanskyは内部測定として、予測精度が訓練時間の対数に対してほぼ線形に改善していると述べた。
技術的な課題:デモと製品化の距離
非侵襲BCIの研究自体はすでに複数の先行事例がある。
- **2023年のNature Neuroscience論文**:fMRI(機能的MRI)を使って連続した言語の意味を再構成。ただし被験者3名、本人の協力が必要な実験設計
- MetaのBrain2Qwerty:EEGまたはMEG(脳磁図)記録からタイピング中の文章をデコード。2026年6月の更新では9名の被験者から計約22,000文を収集
ConduitはEEGやMEGなど複数のセンサーを組み合わせているが、具体的なセンサー構成は非公開だ。
公表されているゼロショット予測の例は、冒頭で触れた通り「部屋が少し寒く感じた」→「そよ風、穏やかな突風のような」というレベルで、意味的な近似にとどまっている。査読済み論文での評価は未実施であり、現状は内部スケーリング結果と大規模な独自データセット、少数のデモにとどまる。
Bashkansky自身も完璧な思考の読み取りではなく、「ノイズ込みの意図推定」からのスタートを想定している。デコーダがおおよそのコマンドを推定し、AIがユーザーのコンテキストや履歴から不確実性を解消するという設計だ。最初の商業的ターゲットは「文字通りのマインドリーディング」よりも、「AIエージェントの予測的制御」に近いものになる見込みだ。
OpenAIのアライメント研究者が見る「人間の制御」問題
Bashkanskyは学生時代にGPT-3とNick Bostromの「Superintelligence」に触れてAI安全研究に入った人物だ。Conduitへの転職は、同じ「人間がAIをコントロールする」問題を、アライメントではなくインターフェース層から解こうとする選択とも読める。
能力が高まるモデルに対して人間がより高帯域でコマンドを与えられるようにするという発想は、アライメント研究との地続きな問題意識がある。もしこのアプローチが成功すれば、テキスト入力や音声コマンドを介さず、意図そのものを起点にAIを操作する体験が現実になる。OpenAIからConduitへというキャリアの軌跡は、AI業界内での問題設定の広がりを示す一例だ。
詳細はNaomi Bashkansky left OpenAI for Conduit's telepathy betを参照していただきたい。