8月4日、MacRumorsが「Apple Limits Bug Bounty Submissions After Flood of AI Slop」と題した記事を公開した。サイバーセキュリティスタートアップのBynarioはAIを活用してmacOSの脆弱性を50件以上発見したが、Appleへの報告数が上限に達してしまい、深刻度の高い脆弱性を含む多数のバグを提出できない状態に陥った。AIによる大量の偽バグレポートへの対策として設けられた制限が、本物の脆弱性を持つ研究者をも巻き込む構造的なジレンマを生み出している。
AIが生成した"幻のバグ"がAppleのレビューを圧迫
AIを使ってバグを探す動きは近年急速に広がっているが、その副作用が表面化した。Appleによれば、セキュリティ研究者向けのバグバウンティプログラムに、AIが「ハルシネーション(hallucination)」で生成した実在しない脆弱性のレポートが大量に流入しており、レビューシステムが低品質な提出物で埋め尽くされている。ハルシネーションとは、AIが事実と異なる情報を自信を持って出力してしまう現象のことだ。
問題を具体的に示したのが、Bynarioの事例だ。同社はChatGPTを活用し、わずか3週間でmacOSの脆弱性を50件以上発見した。その中には、攻撃者がMacへの無制限アクセスを得られる権限昇格(privilege escalation)の脆弱性も含まれていた。深刻度の高い脆弱性にもかかわらず、Bynarioは提出数の上限に達していたため、Appleに報告できない状態に陥った。
Bynarioが2025年に送ったレポートは8件、2026年にはさらに5件を送ったところで制限に引っかかったという。Bynarioの創業者は現状を「業界にとって非常に困難な時期だ。企業はバグの量に圧倒されている」と述べている。
制限の仕組みと抜け道
Appleが設けたのは「同時に提出できるオープンなレポート数の上限」であり、研究者が上限の引き上げを申請できる仕組みも用意されている。重大な脆弱性を見逃さないための配慮だ。Bynarioについても、Appleはすでに連絡を取り、提出物を審査中だとしている。
一方、Appleが手動レビューを主体としている点が、AIによる大量提出の前に脆弱だったとも言える。Appleも現在はレポートの解析にAIを活用し始めているが、これはそもそもAIが引き起こした問題をAIで対処するという構図だ。
こうした状況はAppleに限らない。バグバウンティ業界全体でAI活用が進むなか、HackerOneやBugcrowdといった主要プラットフォームも低品質な提出物の急増に頭を悩ませており、AIによるトリアージ(優先度判定)ツールの導入を進めている。高額な報酬と、AIによるバグ探索コストの低下が組み合わさることで、質より量を狙う"バグバウンティ・ファーム"的な動きが業界全体で加速しているのが実情だ。
AIはバグを"発見"もする
皮肉なのは、AIがバグバウンティの「ノイズ源」になる一方で、Appleの脆弱性発見にも貢献している点だ。直近のiOS 26.6アップデートでは約90件のセキュリティ脆弱性が修正されており、そのうちいくつかはAnthropicのClaudeとOpenAIのCodex Security(OpenAIが提供するコードのセキュリティ解析に特化したツール)の貢献として明記されている。
AIが"問題の発生源"と"解決の担い手"を同時に担うという二重構造は、セキュリティ研究の現場が直面している本質的な矛盾を映し出している。
バウンティの報酬額
Appleのバグバウンティプログラムが提供する報酬は最大200万ドル(高度な実世界攻撃に使用されるエクスプロイトチェーンが対象)で、ボーナスを含めると500万ドル超に達することもある。ベータ版で発見されたバグや、Lockdown Modeをバイパスするバグには追加報酬が設定されている。
こうした高額報酬の存在が、AIを用いた大量・低品質な提出を経済的に動機づけている側面は否定できない。Appleが提出数上限という措置を講じたのはその直接的な帰結だが、Bynarioのように正当な手法で深刻な脆弱性を発見した研究者にとっては、報告の機会そのものが閉ざされるリスクをはらむ。バグバウンティの持続可能性をどう設計するかは、業界全体の課題として浮上しつつある。
詳細はApple Limits Bug Bounty Submissions After Flood of AI Slopを参照していただきたい。