8月5日、Inside AIが「Data Center Costs Could Burst AI Earnings Bubble, Strategist Warns」と題した記事を公開した。AIデータセンターの建設コストが収益を大幅に上回る構造的問題が、米国企業の業績バブルを崩壊させる可能性があるという投資ストラテジストの分析を取り上げている。
8〜10年の償却期間、GPUの寿命より長い
議論の核心となる数字がある。NvidiaのCEO・Jensen Huangが、1ギガワット規模のデータセンターの建設コストを800億〜1,000億ドルと試算したのに対し、市場調査会社のClearviwとエネルギーインフラ企業のLanciumは、そうした施設がAIモデルの稼働で生み出す年間収益を100億〜120億ドルと見積もる。
単純計算で、償却期間は8〜10年。ここに問題の本質がある。
英国の投資銀行Panmure LiberumのストラテジストJoachim Klementは、この期間が最先端GPU(グラフィック処理ユニット)やTPU(テンソル処理ユニット)の実用寿命を大きく超えると指摘する。つまり、投資を回収する前にハードウェアが陳腐化する計算だ。Klementは次のように述べている。
「正確だとすれば、新しく建設されたデータセンターが初期費用を償却するだけで8〜10年かかる。運営費や利益は度外視してだ。最先端のGPUやTPUの合理的な寿命より明らかに長い。」
ハイパースケーラーの「堀」が埋まりつつある
この問題はコスト構造だけにとどまらない。Klementは、Alphabet(Google)、Microsoft、Meta、Amazonといったいわゆるハイパースケーラー(超大規模クラウド事業者)のビジネスモデル自体が変質していると論じる。
かつて彼らは、資本投下が少なくて済む「アセットライト」なモデルで競合が参入しにくい強固な競争優位(経済的な堀)を持っていた。だが今や、巨額のインフラ投資を続ける「資本集約型」企業へと転換しており、その堀は急速に浅くなっている。
競争環境も厳しい。大規模言語モデル(LLM)のユーザーは、性能とコストに応じてプロバイダーを乗り換える傾向を強めている。2025年3月にAnthropicのClaudeがOpenAIのChatGPTを性能指標で上回った際、支出追跡サービス「Ramp AIインデックス」のデータは、ユーザーの乗り換えコストが低いことを示した。
Klementはこの状況を次のように整理する。
「ハイパースケーラーは、特定のモデルプロバイダーへのユーザーの好みに左右されるか、あるいは新たな市場リーダーのビジネスを競合と奪い合うかのどちらかだ。前者なら、パートナーモデルが遅れを取れば収益成長が鈍化する。後者なら、競争激化でマージンが縮小する。」
国際決済銀行(BIS)も指摘した収益の「循環構造」
この問題に輪をかけるのが、国際決済銀行(BIS)が2026年年次経済報告書で明らかにした収益構造だ。2025年において、ハイパースケーラーの収益の半分以上、チップメーカーの収益のほぼ全てが、AIバリューチェーン内での企業同士が互いの売上を支え合う循環的な構造(元記事では"circular financing"に相当する概念として言及)に起因していたという。
この構造は脆弱だ。ハイパースケーラーがマージン防衛のために設備投資(capex)を削減すると、Nvidiaなどの半導体メーカーの収益が連鎖的に落ち込み、市場全体を引きずり下ろす可能性がある。
Wall Streetの楽観と歴史的な乖離
現在のWall Streetのコンセンサスでは、S&P 500の企業利益が今後12ヶ月で27%以上成長し、1株あたり利益が来年にはトレンドの85%超、2028年半ばには100%超上振れすると予測されている。
だがKlementは、第二次世界大戦以降、企業利益がトレンドを44%超えたことは一度もないと指摘する。現在の予測がいかに歴史的に極端な水準かがわかる。米国企業の利益はすでにトレンドの約60%上で推移しており、AI熱狂に支えられた記録的な水準にある。
投資家が直面する本質的な問いは何か
Klementの警告を一言で言えば「Capexトラップ」のリスクだ。ハイパースケーラーはインフラ投資を続ければ利益を圧迫し、削れば半導体メーカーへの連鎖を引き起こす。どちらの道を選んでも、現在のAI業績の過熱を冷ます方向に働く可能性がある。
AI推進派は「指数的な成長が最終的に投資を正当化する」と主張するが、データセンターのコストと収益の間に横たわる現実的なギャップは、その楽観を支えるには大きすぎる。Klementは「この状況が今の投資ブーム全体を急落させる可能性がある」と警告している。
詳細はData Center Costs Could Burst AI Earnings Bubble, Strategist Warnsを参照していただきたい。