8月5日、Inside AI News が「JPMorgan CEO Dimon Leads Cross-Industry Effort to Tackle AI Risks」と題した記事を公開した。JPモルガン・チェースCEOのジェイミー・ダイモン氏が、高性能AIモデルを個人に与えることを「弾道ミサイルを渡すのと同じだ」と比喩を用いて警鐘を鳴らし、業界横断のAIリスク対策連合の組成を主導しているという。
ダイモン氏、CEOを個別勧誘して40社超を結集
ダイモン氏は7月から金融機関・地方銀行・ITベンダーのCEOに対して個人的な声をかけ始め、既存組織であるACI(Alliance for Critical Infrastructure)を母体とした新連合の組成を進めている。金融・エネルギー・通信・交通など40社超が参加に関心を示しており、今月中に組織化のための電話会議を開催、年内に刷新版ACIを稼働させることを目標としている。
ACIはもともとJPモルガン、マスターカード、バークシャー・ハサウェイ・エナジーらが創設した組織で、物理的・サイバー的脅威に対するセクター横断的なレジリエンスを目的としていた。それをAI特化型のガバナンス組織に転換する、というのが今回の動きだ。
連合の目的は、AIの活用事例・脆弱性・必要な防護策についての共通認識を築き、トランプ政権と直接連携することにある。具体的な計画は未公開だが、関係者によれば政府当局とのリアルタイムな情報共有とプロブレムソルビングのフォーラムとして機能させる想定という。
ダイモン氏が名指ししたモデル:Anthropic「Mythos」
ダイモン氏の危機感は抽象的なものではない。7月の発言では、AnthropicのMythos(※元記事に記載されたモデル名。2025年8月時点で公式発表は確認されていない)を名指しし、「Mythosを個人に与えることは、弾道ミサイルを渡すのと同じだ」と語った。これはAIそのものを兵器と断じた発言ではなく、高性能AIが悪意ある者の手に渡ることへの危機感を強調した比喩である。
高度な能力を持つAIが重要インフラへの攻撃に悪用されうる、という懸念がこの発言の背景にある。なお、銀行業界が主導するMythosのリスク評価テストは今回のACI連合とは別の取り組みだが、どちらもAIの「デュアルユース(軍民両用)」問題に業界が対応しようとする動きとして位置づけられる。
なぜ今、インフラ横断連合なのか
連合がセクターをまたいで構成されるのは意図的だ。金融システム、電力グリッド、水道、通信網はデジタルインフラとして相互依存しており、一点の障害が連鎖する。ミネソタ州の水道システムへのサイバー攻撃など最近の事例がその脆弱性を示しており、CISA(米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)もこうした官民連携の重要性を長く訴えてきた。ただし、AIは従来のサイバー攻撃とは異なる新たな攻撃面(アタックサーフェス)を生み出すため、より高速で適応的な対応が求められる。
7月に米政府が立ち上げたGold Eagleイニシアチブは、AI開発者・インフラ事業者・連邦機関が連携し、高性能モデルが発見した脆弱性に対処することを目的としたプログラムだ。元記事によれば、今回のACI連合はその民間版として機能することが期待されており、方向性としてGold Eagleと軌を一にしている。公式詳細については、今後の政府発表を待つ必要がある。
課題:40社の利害調整と政府のスタンス
課題も多い。40社超という規模は、競合関係にある企業や、AIの導入成熟度がまちまちな企業を一本化することを意味する。また、トランプ政権のAI規制スタンスは「軽タッチ(minimal regulation)」寄りであり、政府側がどこまで積極的に関与するかは不透明だ。
規制の文脈では、EUのAI法(EU AI Act)が高リスクシステムに厳格な要件を課す一方、米国は任意のフレームワークとセクター別規制に依存している。技術的能力と組織的な対応準備の間のギャップを埋める役割をACIのような横断組織が担えるかが問われており、ACIの成否は、業界コンセンサスを実効性のある政策提言に落とし込めるかどうかにかかっている。
詳細はJPMorgan CEO Dimon Leads Cross-Industry Effort to Tackle AI Risksを参照していただきたい。