8月5日、Euronewsが「Project Panama: How Anthropic shredded books to train its AI chatbot」と題した記事を公開した。Anthropic共同創業者による海賊版書籍の大量ダウンロードや、書籍を物理的に裁断・スキャンする「Project Panama」の実態が著作権訴訟の裁判文書で明らかになり、15億ドルの和解が成立した経緯を詳しく報じている。
共同創業者がLibGenから海賊版をダウンロードしていた
今回の訴訟で最もスクープ的な事実として注目されるのが、Anthropic共同創業者のBen Mannによる海賊版取得の記録だ。裁判文書には、Mannが2021年6月、「LibGen」と呼ばれるシャドウライブラリ(著作権保護コンテンツを無断で配布する違法サイト)から書籍を大量取得していたことが記録されており、ブラウザが海賊版書籍をダウンロードしている最中のスクリーンショットまで証拠として含まれていた。
翌2022年には、MannがAnthropicの他の従業員に「Pirate Library Mirror」(違法取得書籍の全カタログ)へのリンクを共有し、「ちょうどいいタイミング!!!」と書き添えていたことも判明している。
書籍を「サラミのように」スライスしたAnthropicの秘密計画
著作権訴訟の裁判文書が2026年7月末に開示され、Anthropicが内部的に「Project Panama」と呼ぶ計画の存在が明らかになった。内部計画文書には「世界中の書籍を破壊的にスキャンする」という目的が記されており、さらに「私たちがこれに取り組んでいることを知られたくない」とも書かれていた。
具体的な手順はこうだ。Anthropicは複数の業者(Better World Books、英国のWorld of Booksなど)から一度に数万冊単位で書籍を購入。その後、外部の文書スキャン業者に作業を委託し、油圧式の機械で背表紙を切り落とし、1ページずつ高速スキャンして電子化した。スキャン後の紙はリサイクル工場へ送られ、トイレットペーパーや段ボールに変わった。
委託を受けた業者の証言によれば、Anthropicは「6ヶ月間で50万冊から200万冊を電子化できる経験豊富なスキャン業者」を求めていたという。
なぜ書籍なのか——「AIモデル崩壊」への対策
この計画が始まったのは2024年初頭だ。Anthropicの幹部はClaudeに「低品質なインターネット語」ではなく「きちんとした文章の書き方」を学ばせたいと考えていた。
その背景にあるのが「AIモデル崩壊(AI model collapse)」への懸念だ。これはAI自身が生成したテキストが訓練データに混入することで、モデルの品質が劣化していく現象を指す。ウェブ上のコンテンツはすでにAI生成テキストで汚染が進んでいるが、書籍——特にインターネット普及前に出版されたもの——は人間が書き、プロの編集者が手を入れた文章の宝庫である。
訴訟と和解——著作権史上最大の回収額
Project Panamaが公になったのは、作家グループがAnthropicを相手取った著作権侵害の集団訴訟がきっかけだ。小説家のAndrea Bartzらが2024年に提訴し、海賊版書籍を用いたClaudeの訓練が著作権法に違反すると主張した。
Anthropic(現在の企業評価額は9650億ドル=約875億ユーロ)は先月、15億ドル(約13億ユーロ)の和解に合意した。対象となる著作物は約50万点。原告側弁護士のJustin Nelsonは「著作権回収額として史上最大」と述べた。
ここで重要なのは、今回の和解が問うた範囲だ。裁判所は昨年の判決で「合法的に購入してスキャンした書籍」についてはフェアユース(米国著作権法107条に基づく公正利用の原則)として保護されると判断していた。つまり今回の和解は「AIの開発に書籍を使ってよいか」という問いに決着をつけたものではなく、あくまでも「一部素材をLibGenなどの海賊版サイト経由で取得した」という取得方法の違法性に絞って成立したものだ。Anthropicの副法務顧問Aparna Sridharも「AIの開発に書籍を使えるかどうかではなく、一部素材の取得方法が問題となった」と述べている。
Meta、OpenAI、Google、Microsoftも同様の著作権侵害訴訟を抱えており、今回の和解はAI業界全体を揺るがす長期的な法的攻防の「第一章」に過ぎない可能性がある。
詳細はProject Panama: How Anthropic shredded books to train its AI chatbotを参照していただきたい。