8月5日、PYMNTSが「AI Now Responsible for a Third of US Economic Growth」と題した記事を公開した。AIが米国経済を支えている——その恩恵の大きさは疑いようがないが、同じAI投資ブームがインフレを押し上げ、他の経済活動を圧迫しているという逆説的な構図が浮かび上がりつつある。経済成長の「3分の1」を担う存在が、同時に構造的な歪みをも生み出しているという現実だ。
AIが米国GDP成長の3分の1を占める——歴史的規模の投資ブーム
Oxford Economicsのエコノミスト、Michael Pearce氏の試算によれば、AIが米国経済成長の約3分の1を占めている。この数字の背景をPYMNTSは三つの要因に整理している(なお同記事はWSJ(Wall Street Journal)の報道も引用しており、以下の分析はPYMNTS・WSJ双方の内容を含む)。
- テック企業によるAI投資:Alphabet、Microsoft、Meta、Amazonをはじめとする大手テック企業——いわゆる「Magnificent 7」を中核とする顔ぶれ——がAI計算インフラの整備に数十億ドル規模の資金を投じている。
- データセンター建設ブーム:建設支出の増大が雇用を生み、自治体の税収増加にもつながっている。土地・電力・冷却設備など幅広いセクターへの波及効果が大きい。
- AI関連株高による資産効果:株式市場でのAI銘柄の上昇が家計の資産を押し上げ、個人消費の底堅さにつながっている。
Pearce氏は「この投資ブームがなければ、経済はもっと冷え込んでいたはずだ」と述べている。Barclaysのエコノミスト、Jonathan Millar氏も「今はまさにAI主導の経済だ。このインパクトなしにこれほどの景気の底堅さは考えられない」と指摘する。
金利高止まり・地政学リスク・消費者心理の悪化といった逆風が続く中で米国経済がなお一定の底堅さを維持しているのは、こうしたAI投資の下支えがあってこそという見方が強まっている。
「クラウディングアウト」と物価上昇という副作用
一方で、AIへの資源集中が他の経済活動を圧迫する「クラウディングアウト」の懸念も浮上している。クラウディングアウトとは、ある分野への資金・資源の集中が、他分野への配分を押し出してしまう現象を指す。データセンターに投じられる土地・資材・建設リソースは、本来であれば住宅や道路、その他のインフラ整備に回せたはずのものだ。
JPMorganのエコノミスト、Michael Feroli氏は「AIだけを取り除いて他はそのまま、とはいかない。AIに紐づく経済活動や金融的な熱狂が、他の活動を締め出している可能性がある」と警告する。建設労働者の争奪や電力網への過負荷など、インフラ面での競合はすでに一部の地域で顕在化しつつある。
さらに、AIがインフレに寄与しているという指摘も見逃せない。AIによるメモリチップ需要の高騰がなければ、次世代iPhoneの価格はより安くなっていた可能性があるという。半導体需給のひっ迫はスマートフォンにとどまらず、自動車・産業機器・家電など幅広い製品の価格に波及しうる。消費者の実質購買力への影響は、今後より鮮明になってくる可能性がある。
企業導入の実態:「投資回収は5〜6年先」
PYMNTSの調査レポート「How Services Enterprises Are Putting New Forms of AI to Work」は、金融・医療・メディア/広告の三業種におけるAI活用の現状をまとめている。
同レポートによれば、生成AIの企業導入は1980年代のパソコン普及と同等のスピードで進んでいるという。歴史的にみても、汎用技術(GPT: General Purpose Technology)が経済全体に浸透するには数十年を要してきた。電気・インターネットがそうであったように、AIもまた「導入フェーズ」と「回収フェーズ」の間に大きな時間的ラグを伴う可能性が高い。
注目すべき調査結果は以下の通りだ:
- 調査対象のほぼ全企業が、AIを導入した領域では「過去12カ月でプラスのROIが得られた」と回答
- しかし「投資が完全に回収できた」と答えた企業はわずか5〜10%
- 各業種の少なくとも半数が「完全回収には5〜6年かかる」と見込んでいる
「ほぼすべての企業が何らかの財務的リターンを得ている一方、投資が完全に回収できたと言う企業はほとんどいない」とレポートは総括している。短期のROIは出始めているが、投資規模に見合った全体回収はまだ遠い——これがAI先行導入企業の現在地だ。
AIへの投資規模と経済への波及効果が歴史的に見ても前例のない水準に達しつつある一方、インフレ圧力やリソースの偏在、企業レベルでの回収期間の長さといった構造的課題が並走している。恩恵と副作用が切り離せない形で同時進行しているのが、現在のAI経済の実像といえる。
詳細はAI Now Responsible for a Third of US Economic Growthを参照していただきたい。