8月4日、The Decoderが「Silicon Valley's rift over open source pushes back contemplated White House bans on Chinese AI」と題した記事を公開した。中国製オープンソースAIモデルへの制裁・禁止措置をトランプ政権が検討したものの、Nvidia・Microsoft・Google・Metaなどシリコンバレー大手の組織的な反発を受けて方針を転換したいきさつを、政府・業界関係者6名以上の証言をもとに詳しく報じている。
ホワイトハウスが検討した「中国AIモデル禁止」の中身
ニューヨーク・タイムズの報道によると、ホワイトハウス首席補佐官のスージー・ワイルズ、財務長官のスコット・ベッセント、商務長官のハワード・ルトニックの3名が、オープンソースAI市場への政府介入を巡って協議を重ねていた。現職・元職の政府および業界関係者6名以上がこの事実を証言している。
具体的に俎上に載った措置は以下のとおりだ。
- 中国のオープンモデル開発企業への制裁
- トレードブラックリストへの掲載
- 米国クラウド企業(AWS、Azure、Google Cloudなど)が当該企業とビジネスを行うことの禁止
- 連邦政府機関が使用できるモデルの制限
- 商務省による新たな規制の導入
背景にあるのは、Moonshot AIのKimi K3をはじめとする中国製モデルの台頭だ。Kimi K3は複数の評価指標で米国トップモデルに匹敵するとされる。ホワイトハウス科学技術政策局長のマイケル・クラツィオスはX上でMoonshot AIが「Fable」と呼ばれるモデルを蒸留(distillation)したと非難し、「米国技術の盗用は容認できない」と発言した(※クラツィオスの発言中に登場するモデル名であり、Anthropicの公式モデル名として確認されているものではない)。ベッセント財務長官も同日、制裁の可能性に言及した。
「オープン派」vs「クローズド派」:ビジネス利権と安全保障が絡む構図
この政策論争の裏側には、AIビジネスの利害対立が透けて見える。
制限を求めた側はOpenAIとAnthropicだ。両社はともにモデルをクローズドに保ち、国家安全保障上のリスクを理由に中国製モデルへの規制を後押しした。両社がIPO(新規株式公開)を計画中であることも背景にある。
反発した側はNvidia、Microsoft、Google、Metaだ。これらの企業は「オープンモデルはイノベーションとサイバー防衛を加速させる」という反論を、プライベートメッセージ・電話・ビデオ会議を通じて組織的に構築した。
その象徴的な行動として、Nvidia CEOのジェンスン・フアンが7月24日にX(旧Twitter)へ投稿し、オープンモデルを擁護した(元記事ではこの投稿をフアンにとって注目度の高い発信として紹介している)。Nvidiaはさらにオープンなセキュリティツールのアライアンスをローンチし、当初数社だったメンバーが230社以上に拡大したという。
元商務省高官のクリストファー・パジラは、この対立をNYTの記事の中で「AIの未来をかけたケージファイト(cage fight)」と表現した。そして「本質的にはカネと市場支配の問題であり、安全保障の観点は後付けだ」と語っている。これはあくまで一政府元高官の見立てだが、双方の利害構造を端的に言い表したものとして記事中で引用されている。
結果:制裁は棚上げ、米国モデルの競争力強化へ転換
シリコンバレーの反発を受け、政権は方針を転換した。現在のフォーカスは中国モデルの禁止ではなく、米国モデルの競争力を高めることにある。業界関係者は、9月の習近平訪米前に強硬措置が取られる可能性は低いと見ている。
OpenAIはNYTに対し「オープンとクローズドの両モデルには役割がある」とコメントしつつ、中国製オープンウェイトモデルの進歩は「オープン性への反論ではなく、国家的フレームワークが必要な理由だ」と主張した。AnthropicはコメントをしていないがCEOのダリオ・アモデイは以前の投稿でオープンソースに対する自身のスタンスを明示している。
オープンソースをめぐる議論は技術論にとどまらず、地政学とビジネス利権が絡み合う複雑な構図になっている。MetaがLlamaでオープンソース路線を牽引し、DeepSeekショック以降に中国製モデルの実力が可視化された流れの中で、この論争は今後も続くとみられる。
詳細はSilicon Valley's rift over open source pushes back contemplated White House bans on Chinese AIを参照していただきたい。