8月4日、Help Net Securityが「EU begins enforcing AI Act, putting AI models under the microscope」と題した記事を公開した。2026年8月2日、EU AI Act(EU人工知能法)の執行が正式に開始され、チャットボットへの自己開示義務やAI生成コンテンツへのラベル付け義務など、透明性に関する新たな規則が一斉に発効した。チャットボットは「自分がAIである」とユーザーに明示しなければならない——この義務化は、EU域内でサービスを提供するすべての事業者に即座に適用される。
チャットボットは「自分がAIだ」と名乗らなければならない
2026年8月2日、欧州委員会のAIオフィスおよび各国の規制当局がEU AI Actの執行を開始した。同日、透明性に関する新たな規則も発効している。
この規則が実務上で最も直接的な影響を持つのが、AIシステムの自己開示義務だ。具体的には以下の3点が求められる。
- チャットボットは自身が自動化システムであることをユーザーに明示しなければならない
- ディープフェイク(AIで生成・改変された映像・音声)にはラベルを付与しなければならない
- 機械生成・編集コンテンツには機械可読な印(マーク)を埋め込み、自動検出できるようにしなければならない
違反した企業には、最大1,500万ユーロまたは全世界年間売上高の3%のいずれか高い方の制裁金が科される。
欧州委員会は、これらの措置の目的を「欺瞞や操作の抑止、および人々が情報に基づいた選択を行えるようにすること」と説明している。企業側にとっても、コンプライアンスを示す実践的な手段が提供されることになる。
GPAI(汎用AI)モデルへの新たな監視
AIオフィスが新たに得た執行権限は、GPAI(General-Purpose AI)モデルのプロバイダーを対象とする。GPAIとは、多様なタスクに利用できる汎用的なAIモデルのことで、OpenAIのGPTシリーズやAnthropicのClaudeなどが代表例だ。
最も高度なGPAIモデルのプロバイダーに対しては、化学・生物・放射線・核(CBRN)インシデント、制御の喪失、サイバー攻撃、有害な操作、基本的権利への脅威といった大規模被害リスクへの対処が義務付けられる。
また、すべてのGPAIプロバイダーは以下の対応が必要だ。
- 特定情報をドキュメント化し、規制当局や下流プロバイダーに提供する
- 著作権ポリシーを整備する
- モデルの学習に使用したコンテンツの概要を公開する
180社以上がコンプライアンス「実践の証」に署名
執行開始に合わせ、欧州委員会はAI生成コンテンツの透明性に関する実施規範(Code of Practice)に署名した180以上の組織のリストを公表した。この実施規範は任意の枠組みだが、ラベル付けや透明性義務そのものはAI Act第50条に基づく法的義務である。署名することで、プロバイダーはコンプライアンスを文書化して示せる。
スケジュールは「全部一斉に」ではない
AI Act全体が2026年8月から動き出すわけではない。AI Omnibus(AI Actの適用範囲・義務・スケジュールを見直した改正パッケージ。2025年に欧州委員会が提案し、高リスクAI規定の施行延期などを盛り込んでいる)により、高リスクAIシステムに関する規則の適用は2027年12月2日まで延期されている。規制製品に組み込まれた高リスクシステムについては2028年8月2日まで猶予がある。
一方、有害コンテンツに関しては前倒しで動く。2026年12月2日からは、同意なしに生成された性的露骨コンテンツや児童性的虐待素材を生成するAIシステムが禁止される。
OpenAI・Google・Anthropicとの緊張関係
この執行権限の発動は、欧州委員会と米国の主要AIプロバイダーの関係をさらに複雑にする可能性がある。Googleは2026年7月にEU規制のもとで10億ユーロの制裁金を受けており、欧州委員会はX(旧Twitter)のGrok AIツールについてもデジタルサービス法に基づく正式調査を2026年1月に開始している。
「規制より意識の問題」という異論も
執行強化に懐疑的な声もある。セキュリティコンサルティング企業SpanのガバナンスリスクコンプライアンスマネージャーであるAntonija Vojnovićは、Help Net Securityとのインタビューで次のように述べている。
AI Actが大きな変化をもたらすとは確信していない。AIツールがデータをどう扱うかへの意識の方が、規制そのものより重要かもしれない。
法律の整備と実際の変化の間にあるギャップを指摘する声は、業界内に根強く存在する。
詳細はEU begins enforcing AI Act, putting AI models under the microscopeを参照していただきたい。