8月3日、Tenableが「How Claude Mythos Preview is changing code security at Tenable」と題した記事を公開した。セキュリティ企業TenableがClaude Mythos Previewを自社コードに30日間適用した実証結果と、そこから得られたコードセキュリティの実践的な知見をまとめたものだ。注目すべきはそのスケールで、1人のエンジニアが1ヶ月で約101億トークン・約$41,718を消費した実測値が公開されている。単なる機能紹介ではなく、コスト・体制・ワークフローの変化まで踏み込んだ内容になっている。
「疑いのランク付け」から「証明のランク付け」へ
これまでのコードセキュリティは、膨大な静的解析の結果から「どれが本当に危険か」を推測し、優先順位をつける作業だった。アナリストの注意力こそが希少リソースであり、その希少リソースをどこに向けるかを決めるために、到達可能性ヒューリスティックや悪用可能性の推測といった手法が発展してきた。
Tenableが30日間の検証で得た結論はシンプルだ。フロンティアAIをハーネス(実行基盤)と組み合わせることで、この構造が根本から変わる。 ランク付けはなくならないが、「推測」ではなく「証明」を根拠に並び替えが行われるようになる。動作する悪用コード(Proof of Concept)付きで届いた脆弱性は、「危険かもしれない」ではなく「危険であることが確認済み」として扱われる。
Tenableは以前から、APIエンドポイントを叩いたり事前定義のチェックを実行するセキュリティテストエージェントを運用していた。ただし「未知の欠陥を発見し、その悪用可能性を証明する」という最も難しい部分は、エージェントでは対応できていなかった。今回、AnthropicのProject Glasswingへの参加を契機に、Claude Mythos Previewを組み込んだアジェンティック型コードセキュリティハーネスを構築した(Project GlasswingはAnthropicと外部企業が共同でAIセキュリティ検証を行う取り組みだ)。実行は自社のコードリポジトリに対してコミットを固定した状態(再現性を確保するため)で行われた。
モデルが主役ではなく、ハーネスが資産になる
記事が最も強調しているポイントがここだ。真の資産はモデルではなく、ハーネスである。
モデルは入れ替わる。より優れたモデルがリリースされ、価格が変わり、プロバイダーがエンドポイントを廃止する。プロンプトをモデルに直接配線した構成では、モデルを変えるたびにすべての書き直しが発生する。一方、モデルを交換可能なコンポーネントとして扱うハーネス構成なら、モデルの切り替えは設定変更と半日の再ベンチマークで済む。
Tenableが設計したハーネスはループ構造で動作する。
- 脅威モデルがコンテキストをハーネスに供給する
- 特定の攻撃シナリオと特定のコードパスに対して静的解析を絞り込む
- 稼働中のビルドに対してターゲット型の悪用を試みる
- 結果をフィードバックし、悪用可能性を確認するか偽陽性として除外する

「コーディングエージェントをそのままリポジトリに向ければいい」は機能しない
多くのチームが最初に試みる「既存のコーディングエージェントにコードをスキャンさせる」アプローチについて、Tenableは実際に試した上で否定している。理由は構造的なものだ。
標準的なコーディングエージェントは単一の仮説を追いかけるよう設計されている。コードセキュリティに必要なのはその逆で、大多数が途中で崩れることを前提に、多数の仮説を並行管理する水平展開の作業だ。複雑なサービスを直接指定すると、エージェントはコンテキストウィンドウをアーキテクチャのマッピングで使い切り、実際の脆弱性探索に使える容量がほぼ残らない。
ハーネスが解決する問題は3つある。
- 状態管理: 6時間目にプロセスが死んでも、どのパスを検証済みかを記憶した上で再開できる
- 並列性と集中: 50の狭いハンターがそれぞれ1つの攻撃クラスを1つのコンポーネントに対して処理し、コンテキスト溢れを防ぐ
- クロスリポジトリ推論: 脆弱なコードと、そこへの到達点となるエントリーポイントは別々のサービスに存在することが多い。単一リポジトリのセッションでは両方を同時に見られないが、その繋がりこそが「発見」を「実際に悪用可能な欠陥」に変える鍵だ
コストは2種類の通貨で測る
計算コスト(実測値)
2026年6月の1エンジニア・1ヶ月の使用実績:37のコードリポジトリに対して71回のハーネス実行を行い、総トークン数は約101億トークン、費用は約$41,718。なお記事中では「Claude Mythos 5 list price」として計上されており、Claude Mythos PreviewとClaude Mythos 5の価格体系が同一として扱われている(両者の関係性については元記事内に追加の説明はない)。
June 2026 — 71 runs, 37 services, Claude Mythos 5 list price
5-min cache writes 1.99B tok @ $12.50/MTok = $24,839 (60%)
cache reads 7.77B tok @ $ 1.00/MTok = $ 7,774 (19%)
output 0.15B tok @ $50.00/MTok = $ 7,266 (17%)
base input 0.18B tok @ $10.00/MTok = $ 1,839 (04%)
total ≈ $41,718
費用の60%がキャッシュ書き込みだ。長いエージェントセッションではターンごとにコンテキストが膨らみ、その都度キャッシュへの書き込みが発生する(書き込みは読み込みより高い)。1回あたりのコストは中央値$47に対し、平均$588。最も高額な単一実行は$9,000超。少数の深く広いスイープが大半のトークン費用を占めている。
1回の実行では足りない理由
AIモデルは非決定的だ。同じハーネスを同じコミットに対して2回実行すると、異なる発見結果になる。Tenableの検証では、各パスが前回の半分の新規問題を発見するというパターンが確認された。1回目が全欠陥の半分を見つけるなら、2回目で4分の3、3回目で8分の7に達する。4回目以降は投資対効果が薄くなるため、3回実行を標準とすることを推奨している。
省略できない専門家コスト
もう一つのコストは計算費用より本質的だ。脅威モデルを書き、発見結果をトリアージできるシニアエンジニアが不可欠で、ハーネスはその人を不要にしない。1人が5人分の生産性で動けるようになるというのが現実的な評価だ。
"The tool comes with its cost, and if you buy the tokens without funding the expert, you've built a very fast way to generate findings nobody can act on."
脅威モデルの品質がすべての出力を決定する。空の脅威モデルを渡せば、「自信満々で、もっともらしく、的外れな」出力が機械的な速度で生成される。
人間のアナリストに届く前のゲート
すべての候補発見は、人間に渡る前に4つの問いをクリアしなければならない。日本の開発現場でも「CVSSスコアが高いのに放置」という状況はよく見られるが、このトリアージ設計はスコアではなく「実際に攻撃が成立するか」を軸に優先度を決める点が特徴的だ。
- 到達可能か: 信頼されていない公開エントリーポイントから到達できなければ、バックログ行き
- 自動化可能か: スキルを要しない再現可能な悪用はキューを上がり、個別対応が必要なものは次のリリースまで待つ
- 影響範囲: 部分的な影響やDoSは一段階下、完全制御・任意書き込み・RCEは別ティア
- クラウンジュエル: 重要資産や信頼境界をまたぐ場合、大型チケットが帯域外の緊急パッチになる

30日間の結論
Tenableが30日間で得た結論を一言でまとめると、「スピードではなく、仕事の形が変わった」だ。アナリストはテスト実行から離れ、スコーピングと判断に集中する。プログラム全体が「疑いのランク付け」から「証明済みの事実への対処」に移行する。
トークンを買い、専門家を雇う。その両方が揃って初めて機能する。
詳細はHow Claude Mythos Preview is changing code security at Tenableを参照していただきたい。