8月3日、ロサンゼルス・タイムズ紙のライターShane Hollingsworthが「As computer science enrollments drop, artificial intelligence classes fill up」と題した記事を公開した。米国の大学でコンピュータサイエンス専攻の入学者が減少する一方、AI関連授業が専攻を問わず急速に拡大している構造転換について詳しくレポートしている。
CS専攻が縮み、AI授業が膨張する
米国の大学で異変が起きている。
全米学生クリアリングハウス研究センターの最新データによると、4年制大学のコンピュータ・情報科学系専攻への入学者数は2025年春から2026年春にかけて8%超減少した。ソフトウェア開発者の求人件数が落ち込み、エントリーレベルの開発業務がAIエージェントに置き換わりつつある現状が背景にある。
ところが同じキャンパスで、AI関連の授業は逆に満員状態だ。受講者の多くは「CS専攻以外の学生」である。
大学が動き始めた
各大学の対応は速い。
- バージニア・コモンウェルス大学(VCU):CS専攻外の学生向けAIマイナー(副専攻)を新設
- パデュー大学:AIをすべての学生の卒業要件に設定
- ハーバード大学:新入生の作文クラスでLLM(大規模言語モデル)の仕組みや著作権・偽情報といったAIトピックを教える
- オハイオ州立大学:ハンズオンワークショップを含む「AI fluency(AIリテラシー)」の履修義務を設ける
- ノースウェスタン大学:人気のAIマイナーに加え、AIメジャー(主専攻)を新設。前提科目を整理し、非専攻生がAI・機械学習の授業を取りやすくした
ノースウェスタンのCSチェアであるSamir Khullerは「今後、授業は全体的にかなりアクセスしやすくなる」と述べており、需要対応のためCS教授をさらに3名採用しようとしている。
テキサス大学オースティン校のCS学科長Peter Stoneは非CS専攻向けのAI入門講座を開発したうえで、こう語っている。
「数学や読み書きが誰にでも必要なように、AIリテラシーも誰にでも一定程度必要だと思う」
こうした動きはアメリカ国内にとどまらない。OECDの2024年教育レポートでも、AI・デジタルスキルの横断的な普及が各国の高等教育政策における共通課題として挙げられており、米国の大学が示している方向性は国際的な潮流とも一致している。
「非エンジニア」がAIを学ぶ理由
記事に登場する学生たちのケースが、この動きをよく表している。
心理学専攻のFaith Maeba(21歳)は、職場における人間行動を研究する大学院進学を見据え、AIマイナーを取得中だ。「就職活動で差別化できている」という。
音楽作曲専攻のAlthea Pappasは、AIをキャリアに使うためではなく、「実際の生命を作るとはどういうことか」という哲学的問いを探求するためにAIを学んでいる。生物学専攻のMakenzie Stovall(20歳)は、脳を模倣しようとするAIに神経科医志望として興味を持つ。
音楽分野でも変化は顕著だ。バージニア州ハリソンバーグのイースタン・メノナイト大学では、音楽・美術・演劇・デジタルメディア専攻の学生が数学・CS・電気工学の学生と同じ教室でAIを学ぶ授業が来年開講される。担当のBenjamin Guerrero准教授は「私の考えでは、AIはレコードプレーヤーやラジオ、シンセサイザーやコンピュータ以上に破壊的ではない」と述べた。
これら学生の動機は「就職」「哲学的関心」「専門分野との接続」とそれぞれ異なる。CS専攻という単一の文脈でAIを捉えていた従来の教育モデルとは、根本的に前提が違う。
カリキュラム変更のスピード自体が異常
教育機関は一般に動きが遅いことで知られる。VCUでは以前、授業を設計・承認するまでに1年半かかっていた。それが今は「数か月、場合によっては数週間」(VCU上級副学務長Andrew Arroyo)になった。
コミュニティカレッジはさらに速い。カンザスシティ近郊のJohnson County Community Collegeでは、承認プロセスが軽いノンクレジット(単位なし)授業として「バイブコーディング(vibe coding)」クラスを開講した。バイブコーディングとは、プログラムを一行も手書きせず、自然言語でAIに指示するだけで動くソフトウェアを作るアプローチだ。コーディング経験ゼロの受講者を対象にしており、同校プログラムコーディネーターのGrant Carlsonは「AIは完全な初心者とエキスパートの距離を縮める」と語る。
同校はAI証明書プログラムも提供しており、人事や医療といった特定職種向けにAI授業をカスタマイズする計画も進めている。
「AIがコードを書くとき、理解もAIがやっている」
懸念の声も記事には収録されている。ワシントン大学でCS教育を研究する博士課程のMurtaza Aliは、AIが学習プロセスを肩代わりすることへの危惧を示した。
「AIにやらせると、表面上はコードを書いているだけに見える。しかし実際には、タスクの理解までAIがやっている」
コーディングに限らず、AIを使うことで学生が分野の基礎概念を習得しないまま卒業してしまうリスクを指摘している。この問いは教育界全体にとって未解決のままであり、ツールの普及スピードに教育設計の議論が追いついていない側面もある。
CS専攻の縮小とAI授業の拡大という二つの動きは、単なる教育トレンドの話ではなく、「エンジニアという職種の境界線が溶け始めている」という現実の反映でもある。詳細はAs computer science enrollments drop, artificial intelligence classes fill upを参照していただきたい。