8月3日、CNBCが「Anthropic, OpenAI among firms facing new scrutiny under EU AI Act enforcement powers」と題した記事を公開した。欧州委員会がEU AI Actにもとづく汎用AIモデルへの執行権限を正式に発動し、AnthropicやOpenAI、Googleといった米国AI企業が規制当局による直接介入リスクにさらされることになった。「法律は成立した、次は執行だ」という段階に入ったことで、EU市場に製品を展開するAI企業にとって対応コストと法的リスクが現実のものとなりつつある。
AIモデルの「事前審査権」が正式発動
欧州委員会はEU AI Actにもとづく汎用AI(GPAI: General-Purpose AI)モデルへの監督・執行権限を正式に発動した。GPAIとは、特定用途に限定されず、幅広いタスクに使えるAIモデルを指す。ChatGPTやClaudeのような大規模言語モデルが典型例だ。
新たに付与された権限の主な内容は以下の3点である。
- EU域内での公開前にモデルの評価を要求できる(事前審査権)
- EU市場へのアクセスを制限できる
- 違反企業に最大1,500万ユーロ、または年間売上高の3%のいずれか高い方の罰金を科せる
欧州委員会のHenna Virkkunen上級副委員長(技術主権・安全保障・民主主義担当)は「AIが適切に設計・利用されない場合、被害が生じうる。最先端モデルはまったく新たな規模のリスクをもたらす」と声明で述べた。
なお、今回の執行権限はEU AI Actの段階的施行スケジュールに沿ったものだ。同法は2024年8月に発効し、禁止AI慣行への適用(2025年2月)、GPAIモデルへの適用(2025年8月)、高リスクAIシステムへの完全適用(2026年8月)と段階を追って施行されてきた。今回の動きはその流れの中に位置づけられる。
執行機関として中心的な役割を担うのが、欧州委員会傘下に設置された独立監督機関であるEU AI Officeだ。EU AI Officeは2024年に設立され、GPAI規制の一次的な執行主体として機能する。加盟国の国内当局と連携しながら、域内外の事業者を対象に調査・制裁を行う権限を持つ。
「米国に本社があっても関係ない」
法律事務所Sidley AustinのパートナーElisabetta Righini氏は、この規制の射程についてCNBCに明確に語っている。
「米国の住所があっても、EUの規制当局の手が届かないわけではない。EU域外の提供者も、規制当局の窓口となるEU域内の公認代表者を指名しなければならない」
さらに注目すべきは、罰金リスクの対象が「実質的な違反」に限らない点だ。
「GPAIの責任は、実質的な規則違反に限定されない。情報提供の要求を拒否すること、誤った回答をすること、モデル評価を妨害することだけでも、それ自体が罰金の対象になる」とRighini氏は述べた。
つまり、当局の調査に非協力的な姿勢をとること自体が制裁対象になりうる。日本企業であっても、EU向けにAIサービスを提供している場合は同様の義務を負う点には注意が必要だ。※編集部の考察
AnthropicとOpenAIをめぐる具体的な経緯
Anthropicとの関係では、EUがAnthropicの特定モデルへのアクセスを数カ月にわたって求めていた経緯がある。Anthropicが最終的にアクセスを提供したのは2026年6月のことだ。
OpenAIとAnthropicについては、Reutersが7月31日付で報じた記事で、両社のモデルを利用したサイバー攻撃を受けてEUが協議中だと伝えており、OpenAIはEU AI Officeと連絡を取っていることを認めた。
OpenAIのEMEA政策担当VP、Tom Gordon氏はCNBCに対し「AI Actの実施において欧州委員会や広いエコシステムと緊密に協力してきており、引き続き協力する」と述べた。Googleの広報担当者も「適用されるすべてのルールを遵守することに引き続き取り組む」とコメントした。
米国との摩擦は続く
今回の執行権限発動は、米欧間の技術摩擦が高まる中での動きだ。7月にはGoogleがEUから10億ドルの制裁金を受け、これに対してトランプ大統領がEUに「相当規模の」関税を示唆するなど、外交的緊張も続いている。
EUとしては米国システムへの依存を減らし「技術主権」を確立したい意図があり、AI規制はその手段の一つでもある。執行権限の正式発動は、そうした政治的文脈とも切り離せない。規制の「存在」から「運用」へと局面が変わった今、AI企業はコンプライアンス体制の整備を加速させる必要に迫られている。
詳細はAnthropic, OpenAI among firms facing new scrutiny under EU AI Act enforcement powersを参照していただきたい。