8月3日、TechSpotが「OpenAI reaches one billion active users as it cuts GPT-5.6 prices by up to 80%」と題した記事を公開した。OpenAIはGPT-5.6シリーズの大幅値下げとアクティブユーザー10億人突破を同時に発表したが、131億ドルの収益に対して210億ドルの損失という数字が示すように、普及の加速が収益性の改善に直結していないという構造的矛盾はむしろ深まっている。
GPT-5.6 Lunaが80%値下げ、Terraは20%削減
7月30日、OpenAIはGPT-5.6シリーズ2モデルの価格改定を発表した。
GPT-5.6 Lunaは入力トークン100万件あたり1ドル→0.20ドル、出力トークン100万件あたり6ドル→1.20ドルへと、それぞれ80%の値下げとなった。
GPT-5.6 Terraは入力が2.50ドル→2ドル、出力が15ドル→12ドルと20%の削減にとどまる。
フラッグシップモデルであるSolの価格は据え置きだが、「Fast mode」が新たに追加された。通常処理の最大2.5倍の速度で動作し、価格は2倍。OpenAIによれば、高速化による性能低下はないという。
また、Luna・Terraの値下げはChatGPTやCodexの有料サブスクリプションのクレジット消費量にも反映される。サブスクリプション価格やクオータ予算自体は変更なしだ。
値下げを可能にした技術的背景
OpenAIはコスト削減の要因として、モデルおよびサービング基盤全体の効率改善を挙げている。
具体的には、GPT-5.6 Sol自身がGPUカーネルを自律的に書き直し・最適化したことで、エンドツーエンドのサービングコストを20%削減したとしている。ただし、この「AIがGPUカーネルを自律最適化した」という主張は元記事がOpenAIの発表をそのまま伝えたものであり、独立した技術的検証が行われているわけではない点には注意が必要だ。さらに、投機的デコーディング(speculative decoding)の改善実験によってトークン生成効率が15%以上向上したとも述べている。
投機的デコーディングとは、小型モデルで先行して出力候補を生成し、大型モデルで検証・修正することで推論を高速化する技術だ。
OpenAI CFOのSarah Friarはこの動きを次のように表現している。
「より高い知性が広範な採用を促し、広範な採用がより多くの投資を支え、より多くの投資が知性と効率を向上させる」
アクティブユーザー10億人突破、ただし赤字は拡大中
翌7月31日、FriarはOpenAIのモデルがアクティブユーザー10億人以上、法人顧客200万社以上に達したことを明らかにした。ただし、OpenAIはこの数字の集計単位(週次か月次か)を明示していない。以前ChatGPTの週次ユーザーが9億人超と発表していることから、週次ベースの数字とみられるが、確定的ではない点に留意が必要だ。
エンゲージメントも向上しており、登録から6ヶ月後にはユーザーが1日に送るメッセージ数が約50%増加し、ChatGPTを利用する用途の種類も約2倍になるという。
一方で、ユーザー数の急増は収益性に直結していない。OpenAIは2025年に131億ドルの収益を上げながら、210億ドルの損失を計上している。当時9億人いた週次ユーザーのうち、有料サブスクリプションを利用しているのはわずか5000万人程度だった。
重課金ユーザーによってフラットレートのAIサブスクリプションが赤字に転落しうる構造的問題は以前から指摘されており、今回の値下げがさらなるヘビーユーザーを呼び込めば、コンピューティングインフラへの多額の投資が続く中でマージンへの圧力が増すとアナリストは警告している。
LLM価格戦争の文脈で読む
今回の値下げはOpenAI単独の判断ではなく、業界全体の価格競争が背景にある。GoogleはGemini 2.5 Flashの入力価格を昨年比で約50%削減しており、AnthropicもClaude Haiku 3.5を旧世代比で最大80%値下げするなど、低価格帯モデルの競争は特に激しい。APIコストに敏感なスタートアップ・エンジニア層の争奪戦が激化する中、OpenAIとしてはLunaのような低価格帯モデルを大幅に引き下げることで、コスト重視の開発者ユーザーをつなぎ止める狙いがある。ただし、値下げによる客単価の低下がユーザー数の増加で相殺できるかどうかは、現時点では見通しが立っていない。
詳細はOpenAI reaches one billion active users as it cuts GPT-5.6 prices by up to 80%を参照していただきたい。