8月2日、RuntimeWireが「Arrakis raises $8 million for AI agent runtime security」と題した記事を公開した。この記事では、TorqおよびPalantir出身者が創業したArrakis Securityが、AIエージェントのランタイムセキュリティ分野で800万ドルのシード資金を調達したことを詳しく紹介している。
AIエージェントが「人間の代わりに権限を行使する」時代のセキュリティ問題
AIエージェントはツールを呼び出し、クレデンシャルを使用し、ビジネスシステムを変更する——これらすべてを、人間の承認を待たずに実行する。従来のセキュリティは「誰がアクセスするか(Identity)」を管理することで成立していたが、エージェントが実際に動作する「ランタイム」フェーズでは、付与された権限がどう使われるかを監視する別のレイヤーが必要になる。
Arrakis Securityはまさにこの問題を狙ったスタートアップだ。同社はHetz Ventures主導のシードラウンドで800万ドルの調達を発表した。
創業メンバーは3人。Tal BaronとOmer Efratはセキュリティオートメーション企業Torq出身、Ron ShaniはPalantirで8年のキャリアを持つ。Efratはエンジニアを経てプロダクトマネジメントに転向し、Torqではバイスプレジデント・オブ・プロダクトを務めていた。投資家にはElevenLabs CEO Mati Staniszewski、Torq CEO Ofer Smadari、Pentera CEO Amitai Ratzzonといった名前が並ぶ。現在の従業員数は約20名で、イスラエルで採用を拡大する計画だ。
「発見・追跡・阻止」——IdentityからBehaviorへ
Arrakisのプロダクトは「Autonomous Workforce Governance」プラットフォームと呼ばれている。AIエージェントを、従来は従業員やサービスアカウントが持っていた権限を引き継ぐ「非人間の労働者」として捉え、そのガバナンスを行う発想だ。
機能の核心は、エージェントがアクセス権を得た「後」に何をするかを監視する点にある。具体的には以下を行う:
- サンクション済み・シャドーエージェントの検出(管理者が把握していないエージェントを洗い出す)
- 各エージェントのオーナーとの紐付け、権限のインベントリ化
- 行動ベースラインの確立とリスクスコアの算出
- ポリシー違反時の自動対応:アクション遮断、権限剥奪、インテグレーション停止、キルスイッチの発動
対応しているシステムは幅広い。ワークフローツールとしてn8n、Make、ServiceNow、Salesforce Agentforce。コーディングエージェントとしてCursor、Claude Code、Devin、GitHub Copilot。さらに主要AIプロバイダーのデスクトップアシスタントも対象だ。
インフラ面では、MCPゲートウェイ(Model Context Protocol準拠のトラフィック検査ポイント)がエージェントと外部ツール間の通信を検査し、許可リストやDLP(データ損失防止)制御を適用し、ツールサーバーパッケージの既知脆弱性をチェックする。IDプロバイダー、デバイス管理システム、開発者エンドポイント、SIEMとの連携アーキテクチャも文書化されている。
また、Arrakisが強調するもう一つの機能がレッドチーミングだ。多ターンの操作攻撃(プロンプトインジェクションなど)、過剰権限、エージェントが自身の推論プロセス内では検知できない攻撃を対象にする。その前提は明快だ:「自律システムは、自分の行動が操作されているかどうかの唯一の判定者にはなれない」。エージェントのセキュリティを外部の監視レイヤーに委ねる必然性を端的に示している。
Hetzは同カテゴリに2社同時出資——混戦する市場と時系列
リード投資家のHetz Venturesは、2025年6月にも類似のスタートアップWillowに700万ドルを出資している(こちらもHetz主導のシードラウンド)。Willowはエンタープライズ向けAIエージェントガバナンスソフトウェアを開発中だ。同一VCが近接するアプローチに同時に張っているのは、このカテゴリがまだ「どこに属するか」が決まっていないからだ。AIエージェントのセキュリティが、Identity管理なのか、エンドポイントセキュリティなのか、AIゲートウェイなのか、クラウドセキュリティなのか、SOCの領域なのか——業界としての合意はまだない。
市場ではすでに統合の動きが始まっており、時系列を整理すると以下のようになる:
- 2025年5月:CodeIntegrityが500万ドルを調達
- 2025年8月:SentinelOneがPrompt Securityの買収に合意(エージェント向けセキュリティ強化)
- 2026年2月:Check PointがCyataを買収(エージェント検出・ガバナンス・制御)
大手がコントロールポイントを取り込む前に、専用レイヤーとして確立できるかがArrakisの勝負どころだ。
市場の現実:Gartnerは「4割以上のプロジェクトが2027年末までに中止」と予測
厳しい見方もある。Gartnerは2025年6月、エージェンティックAIプロジェクトの40%以上が2027年末までにキャンセルされると予測している。理由はコスト増、事業価値の不明確さ、不十分なリスク管理だ。
守るべきエージェントが減れば、Arrakisのビジネス機会も縮む。一方で、ガバナンスの整備こそが実験段階のプロジェクトを本番移行させる鍵になるという見方もできる。今回の800万ドルは、エンタープライズが本番で大規模にエージェントを動かすかどうかが明確になる前に、その制御レイヤーの地位を確保するための時間を買うラウンドだといえる。
詳細はArrakis raises $8 million for AI agent runtime securityを参照していただきたい。