8月1日、Futurismが「A Prominent AI Investor Is Now Crumbling, in What Could Be a Sign of Things to Come」と題した記事を公開した。24歳の元OpenAI研究者が立ち上げたAIヘッジファンド「Situational Awareness」が、7月の大規模なテック株売りによって事実上崩壊した経緯を詳しく伝えている。
投資経験ゼロの24歳が運営したAIヘッジファンド
Leopold Aschenbrenner(レオポルド・アッシェンブレナー)は、OpenAIの元研究者だ。投資実務の経験を持たないまま、AIへの強気な見通しを掲げてヘッジファンド「Situational Awareness」を立ち上げた。Financial Timesの報道によれば、彼はAIの進化と社会的影響を予測する論考で注目を集めており、AI業界の一部では先見的な論客として知られている(「AIのノストラダムス」という呼称はそうした文脈で使われてきたが、公式な称号ではなく業界内の俗称に近い)。
設立からの成績は圧倒的だった。Financial Timesの報道によれば、ファンドは今年6月末時点で年間439%のリターンを記録し、設立来では1,551%もの上昇を達成していた。FTが規制当局への届出から確認したところ、ピーク時の運用資産は数百億ドル規模に達していたとされる。
7月、すべてが逆回転した
7月に入ると、状況は一変した。
ファンドはAIインフラ関連の銘柄に集中投資していたが、半導体メモリ大手のSK Hynix(韓国の半導体メーカー。HBMなどAI向けメモリの主要供給元)が急落したことで、その持ち高が大きな損失を生んだ。一方、AIに代替されると見てショート(空売り=価格下落を見込んで株を借りて売る手法)していたAdobeなどのソフトウェア企業は、逆に上昇を続けた。
さらに、投資先のSandisk(フラッシュストレージ大手)、Micron(DRAMやNANDフラッシュを手がける米半導体メーカー)、CoreWeave(GPU特化型クラウドコンピューティングを提供するAIインフラ企業)はいずれも今月35%超の下落を記録。Wall Street Journalは、ファンドが7月だけで67%下落したと報じた。
損失を埋めるため、Aschenbrennerは投資家に「今こそ追加投資の好機」と訴えたが、資金は集まらなかった。事態が悪化すると、今度は投資家の電話に出なくなったという。
「Leopoldは電話を取るのをやめた」——ある投資家がFinancial Timesに語った。
Citadelへの投げ売りと、構造的な問題
追い詰められたSituational Awarenessは、保有する公開株式の大半を投資会社**Citadel(ケン・グリフィンが創業した米国最大級のヘッジファンド)に売却した。FTはこの取引を、市場への影響度と処理速度の両面において異例の規模だったと報じている。なお、AI企業Anthropic**への出資分は手放さなかった。
ここで浮かび上がるのがファンドの構造的な脆弱性だ。FTが規制当局への届出から確認したところ、数百億ドル規模の資産を運用していたこのファンドの実態は、投資専門家4名を含む従業員8名という極めて小規模な体制だった。
加えて、ファンドは借り入れた資金(レバレッジ)を使って株式を購入していた。上昇局面ではリターンを大きく増幅させる一方で、下落局面での損失も同様に拡大する手法だ。高いリターンの裏側には、相応のリスクが潜んでいたことになる。
AI投資バブルの実態
Futurismはこの件について、「AI株はこの嵐を乗り越えるかもしれない。しかし本当の警戒信号は、投資家がAIに目が眩むあまり、何をしているかわからない人物に数十億ドルを託していたという事実だ」と指摘している。
投資実務の経験を持たない研究者が数百億ドル規模の資金を集め、わずか数名で運用し、そして一か月で崩壊する——この事例は、現在のAI投資熱がいかに実態の精査を欠いたものになりうるかを示している。
※編集部の考察:日本国内でもAI関連ファンドや投資信託への資金流入が続いており、運用実態や体制の開示が不十分なまま高リターンだけが強調されるケースは他人事ではない。本件は、著名なAI論客の「ナラティブ」と実際の運用能力を混同することのリスクを改めて示した事例といえる。
詳細はA Prominent AI Investor Is Now Crumbling, in What Could Be a Sign of Things to Comeを参照していただきたい。