8月1日、The Decoderが「German court rules AI music generator Suno violated copyrights, rejects fair use defense」と題した記事を公開した。ドイツ・ミュンヘンの裁判所がAI音楽生成サービスのSunoによる著作権侵害を認定し、フェアユース(公正利用)の抗弁も退けた判決について詳しく紹介されている。
ドイツ著作権管理団体GEMAがSunoを訴えた
ドイツの音楽著作権管理団体GEMAが、米AI音楽スタートアップのSunoに対して差止命令・情報開示・損害賠償を求めて提訴した裁判で、GEMAはほぼ全面勝訴した。GEMAは日本のJASRACに相当する機関であり、ドイツ国内の音楽著作権の管理・徴収を担っている。
争点となったのは6曲。Kristina Bachの「Atemlos durch die Nacht」やFrank Farian、Fred Jay、George Reyam作の「Rasputin」などが含まれる。なお歌詞は対象外で、楽曲の音楽的構成要素のみが問題となった。
「記憶」は現実に起きていた
裁判の最大の焦点は、AIモデルが学習データの内容を記憶しているかどうかだ。
AI研究では「メモライゼーション(memorization)」と呼ばれる現象が知られている。モデルが学習中に汎用的なパターンだけでなく、特定のデータを丸ごと記憶してしまい、後の生成物として出力できてしまうというものだ。
GEMAは各楽曲のオリジナル歌詞・音楽スタイル・タイトルをSunoのジェネレーターに入力した。メロディ・ハーモニー・リズム・アレンジについては一切指定していない。それでもSunoは、裁判所が元楽曲のオリジナル要素と認めるアウトプットを生成した。裁判所は楽曲の複雑さと長さを考慮し、偶然の一致を否定した。
Sunoは「モデルは楽曲を保存しているのではなく、数学的に学習したパターンと汎化された特徴のみを保持している」と主張したが、裁判所は退けた。
責任はユーザーではなくSunoにある
Sunoは「ユーザーが意図的にプロンプトを入力した行為が因果関係を断ち切る」と主張したが、裁判所はこれも認めなかった。GEMAが使ったプロンプトは「シンプルでオープンエンドなもの」であり、Sunoがモデルを運用し、学習データとして楽曲を選定し、アーキテクチャとメモライゼーションの責任を負っているとされた。
裁判所は「音楽生成のためにジェネレーターを提供する行為だけで、すでに法律違反を構成する」と述べた。この判断が控訴審でも維持されれば、他のAI音楽サービスにも波及する可能性がある。
フェアユース抗弁も退けられた
この裁判でとりわけ注目に値するのは、フェアユース抗弁が否定された点だ。ただし、ここで言うフェアユースは米国著作権法上の概念であり、ドイツの裁判所が直接これを適用したわけではない。裁判所が米国の判例を参照・比較したのは、Sunoが米国企業であり、AI著作権訴訟の先行事例として米国の判断が国際的な議論の基準点となっているためだ。
米国ではKadrey v. Metaなどの訴訟において、AI学習を「変容的利用(transformative use)」としてフェアユースを認める方向の判断が出ていた。ミュンヘン裁判所はこれらとの違いを明確にした。それらの事例では「学習データがアウトプットとしてユーザーに提示されていなかった、あるいは実質的に提示されていなかった」のに対し、Sunoの場合は「シンプルな入力で元楽曲と実質的に類似した結果が生成された」という点が決定的な差だとした。
裁判所はさらに、米国最高裁が2023年のWarhol判決で示したフェアユース判断の枠組みも参照している。同判決はアンディ・ウォーホルによるプリンスの写真を基にした作品が「変容的利用」に当たるかが争われたもので、最高裁は商業的利用においては変容性の主張を狭く解釈すべきとした。ミュンヘン裁判所はこの枠組みに照らしてもSunoに不利な判断を下した。なお、本判決はまだ確定していない。
ただし、裁判所自身もこのロジックには留保をつけている。音楽モデルが記憶しているからといってテキストモデルが記憶していないわけではない。単にSunoの件では具体的な再現が証明されたが、他の訴訟ではそれが証明されなかっただけだ、と。実際、研究者はハリー・ポッターのような著名書籍を言語モデルから96%に近い精度で原文そのままで抽出できることを示している。
YouTubeの技術的保護手段を回避していた疑い
裁判所の記録にはさらに踏み込んだ事実が記載されている。裁判所のプレスリリースによると、SunoはYouTubeから音楽を抽出するために「ストリームリッピング技術」を使用し、ダウンロードを防ぐ技術的保護手段である「Rolling Cipher」を回避したとされる。
これは著作権侵害以前の問題として、技術的保護手段の回避自体が違法行為にあたる可能性を示す。米国では現時点でも「フェアユースは海賊版素材を使ったAI学習には適用されない」という立場が裁判所に定着しつつあり、この点はSunoにとってさらなるリスク要因となりうる。
プロンプトの「シンプルさ」という疑問
※編集部の考察
裁判所がGEMAのプロンプトを「シンプルでオープンエンド」と評した点には疑問も残る。GEMAは完全な歌詞・音楽スタイル・タイトルを入力しており、再現したい楽曲の同一性はほぼ特定されていた。通常のユーザーがAI音楽ジェネレーターでオリジナル曲を作る際に、このような入力をすることはまずない。
NYタイムズ対OpenAIの訴訟でも同様の争点がある。著作権保護コンテンツを再現するよう設計された「標的型プロンプト」が、AIシステムの通常利用を反映しているのか、それとも特殊なケースなのか、という問いだ。「システムがオリジナルを出力してしまうのはバグなのか、それともフィーチャーなのか」という問いとも言い換えられる。
詳細はGerman court rules AI music generator Suno violated copyrights, rejects fair use defenseを参照していただきたい。