7月31日、CNBCが「How Leopold Aschenbrenner built a $45 billion AI hedge fund」と題した記事を公開した。この記事では、元OpenAI研究者レオポルド・アッシェンブレンナーが立ち上げたAIテーマのヘッジファンドが最大450億ドルの資産規模を達成しながら急落した経緯について詳しく紹介されている。
峰から奈落へ:1000%超のリターンが消えた
ピーク時450億ドル、現在100億ドル。 たった数週間でファンドの資産規模が約78%消失した——これがアッシェンブレンナーの「Situational Awareness」ファンドに先週末にかけて起きたことだ。
半導体株の急落によるマージンコール(※保有資産の価値が担保水準を下回った際に追加証拠金を求められること)に追い込まれたファンドは、SK HynixやCoreWeaveなどのレバレッジポジション(※借入資金を活用して実際の出資額以上の取引を行うこと)を、ケン・グリフィン率いる大手ヘッジファンドCitadelに投げ売りする形で清算を余儀なくされた。CNBCが関係者から入手した情報によると、清算前の保有資産の約3分の2は株式のロング・ショートポジション(※値上がりを見込んだ買いポジションと値下がりを見込んだ売りポジションを組み合わせる手法)で、残りはAnthropicへの数十億ドル規模の投資を中心とした未公開株だった。
ファンド名「Situational Awareness」は、アッシェンブレンナーが2024年6月に公開した165ページに及ぶAI論文と同名だ。論文はleopoldaschenbrenner.comで全文公開されており、AGI(汎用人工知能)が数年以内に到達し得るという主張でシリコンバレーに衝撃を与え、必読文書として広く読まれた。そのわずか1ヶ月後の2024年7月にファンドを立ち上げ、Wall Street Journalによれば設立来1000%超のリターンを記録していた。
アッシェンブレンナーとは何者か
ドイツ生まれで医師の両親を持つアッシェンブレンナーは、ドイツの学校制度で数学年を飛び級し、15歳で高校を卒業。コロンビア大学では19歳で首席(valedictorian)を務め、AIの安全性に関する学術論文「Existential Risk and Growth」が注目を集めた。
コロンビア在学中は、テック業界で一定の支持を持つ思想「Effective Altruism(効果的利他主義)」の学内チャプターを共同設立。この人脈が後のキャリアの入口となり、卒業後は同思想の信奉者であるFTX創業者サム・バンクマン=フリードの慈善活動部門「Future Fund」に参加——のちにFTXは崩壊する。
2023年にはOpenAIのSuperalignmentチームに加入し、イリヤ・スツケヴァーの下でAIの安全性研究に従事。その後、外国(具体的には中国)によるスパイ活動に対してOpenAIのセキュリティが不十分だとする内部メモをボードに送付したことが発端となり、2024年に機密情報の不適切な共有を理由に解雇された。アッシェンブレンナー本人はこの解釈を否定し、セキュリティ上の懸念を訴えただけだと主張している。
OpenAIで安全性研究に携わっていたコンピュータ科学者のScott Aaronson(現テキサス大学オースティン校)はCNBCへのメールでこう述べている。
「私はOpenAIでレオポルドと働いていた頃、彼のことを好ましく思っていた。彼が正しいと思ったことをしようとしていたのに、リーダーシップが過剰反応したように聞こえた」
論文からファンドへ:資金調達の経緯
OpenAI退社後、アッシェンブレンナーは前述の165ページ論文を公開。これをきっかけに知名度が急上昇し、わずか数週間後にファンドの立ち上げへとつなげた。
初期資金として2億2500万ドルを調達。出資者にはStripe共同創業者のパトリックとジョン・コリソン兄弟、元GitHub CEONat Friedman、投資家のDaniel Grossが名を連ねた。
しかし批判も根強い。ファンド立ち上げ以前に運用経験がゼロだったこと、報道では最大400%のレバレッジを使用していたとされることは、ウォール街の元トレーダーたちからは最初から懸念視されていたという。
ウォール街向けコーチング会社を経営するJerry Diaoはこう指摘する。
「多くの人がこの崩壊を『起きるかどうか』ではなく『いつ起きるか』の問題だと見ていた。AIに関する彼の見解が長期的に正しいとしても、公開市場では短期的なリスクに備えなければならない」
なお、CNBCによればファンドの急落は7月末に予定されていたアッシェンブレンナー自身の結婚式と時期が重なっている。
AIの未来を「見えている」と確信した研究者が、市場の現実に直面したキャリアの一断面として、エンジニアとファイナンスの交差点にいる人間にとって示唆の多い事例だ。長期的なテーゼの正しさと、それを公開市場で収益に変換する技術は別物であるという教訓は、AIブームに乗じた投資・起業が相次ぐ現在のシリコンバレーに広く当てはまる問いでもある。アッシェンブレンナー自身がAGI到達への信念を持ち続けているとすれば、次に彼がどのような形でその確信を体現するかは注目に値する。
詳細はHow Leopold Aschenbrenner built a $45 billion AI hedge fundを参照していただきたい。