7月31日、RuntimeWireが「Amazon books $53.4 billion in other income as Anthropic stake swells」と題した記事を公開した。AmazonのAnthropicへの投資持分が急膨張し、2025年第2四半期決算において534億ドルの営業外収益を計上した経緯について詳しく紹介されている。
Anthropicの評価額急騰がAmazonの帳簿を動かした
AmazonはAnthropicへの投資を通じて、2025年第2四半期に534億ドルの営業外税引前その他収益を計上した。投資の内訳は、2025年末時点での累計投資額80億ドルに加え、2025年4月のシリーズHへの追加投資50億ドルを合わせた計130億ドルであり(※80億ドル+50億ドル=130億ドルが累計投資額の実態)、帳簿上の利益はその4倍以上に達する。
この評価益の背景にあるのは、Anthropicの直近ファイナンシングだ。2025年5月28日、Anthropicはポストマネー評価額9650億ドルでシリーズH資金調達を実施した。これは同年2月のシリーズGにおける3800億ドルという評価額の2倍超であり、このラウンドが「観察可能な市場価格」としてAmazonの会計処理に反映された。
Amazonの会計方針では、非上場企業への投資はコスト基準で計上し、外部の取引によって新たな価格が確認された際に調整を行う。今回のシリーズHがその「価格設定イベント」となり、評価益をその他収益として認識できる状態になった。
なお、この534億ドルはキャッシュではない。あくまで評価替えによる会計上の計上であり、Amazonの営業収益(売上や利益)とは切り離されている。同四半期の本業は堅調で、純売上高は前年同期比20%増の2006億ドル、AWSの成長も加速している。
「円環構造」の商業関係
評価益の数字以上に構造的に面白いのは、AmazonとAnthropicの関係が持つ循環性だ。資本・インフラ・評価の三者が互いを強化し合う構図になっており、単純な出資者と被出資者の関係にとどまらない。具体的な流れを整理すると以下のようになる。
- Amazonが資本をAnthropicに提供する
- AnthropicはそのファイナンスをAWSインフラ購入に充てる
- 新規投資家がAnthropicの評価額を引き上げる
- Amazonが評価益を計上する
つまりAmazonは、出資した資金がAnthropicを経由してAWS売上として返ってくる構図を持ちながら、Anthropicの評価上昇による帳簿上の利益も同時に享受する。この二重の受益構造が、単なる財務投資とは異なる点だ。
4月20日に発表された拡張契約では、Anthropicが10年間で100億ドル超をAWSに投じることを約束。Claudeの学習・推論用途でトレーニングチップ「Trainium2」を100万枚以上運用しており、Amazon Bedrockを通じて10万社超の顧客にClaudeを提供している。
Anthropicにとってクラウド調達はファイナンス戦略そのものであり、AmazonはClaudeの市場評価上昇とAWS/Trainium需要拡大の両面から恩恵を受ける設計になっている。
第1四半期の先行計上と投資スキームの詳細
今回の534億ドルは突然の数字ではない。第1四半期(3月31日付)にも168億ドルのAnthropicに関連する税引前利益をすでに計上しており、3月末時点での非上場株式持分の帳簿価額は481億ドル(2024年末は162億ドル)に達していた。
投資の内訳は以下の通りだ。
- 2025年末時点の累計投資額:80億ドル
- 2025年4月の追加投資(シリーズHの一部):50億ドル
- 合計累計投資額:130億ドル
- 設定済みファシリティ(将来の追加余地):最大200億ドル
この200億ドルのファシリティは、IPOや直接上場などの「適格流動性イベント」から30ヶ月後に期限を迎える条件となっている。
IPOが「紙の利益」を問い直す
2025年6月1日、AnthropicはIPOに向けたドラフトS-1(有価証券届出書)を非公開で提出した。株数・価格・上場日はいずれも未定だ。
IPOが実現すれば、Amazonが保有するAnthropicポジションに対して継続的な市場価格がつき、流動化への道筋も生まれる。同時に、Anthropicの売上構成・損益・コンピュート義務・投資家権利が目論見書として公開され、現在の9650億ドルという評価額が実態と照らし合わせて検証されることになる。
Anthropicの収益については、2025年4月時点で月次ランレート(月次売上の年換算値)が10億ドル超、5月時点で約39億ドル超に達したと同社が発表している(※元記事の数字を確認の上、年換算ランレートとして「数十億ドル規模」と表現。桁感の正確な確認は元記事を参照されたい)。ただし、これはあくまで自社発表のランレートであり、監査済みの年間収益でも、収益性・キャッシュフローの開示でもない点には注意が必要だ。
それまでの間、Amazonの534億ドルは非公開市場の評価に基づく数字であり続ける。その経済的価値はAnthropicが5月の調達価格を維持できるかどうかにかかっており、評価が下がれば減損として逆方向に動く可能性もある。
詳細はAmazon books $53.4 billion in other income as Anthropic stake swellsを参照していただきたい。