7月31日、PYMNTSが「Lloyds Banking Group Mobilizes 800 AI Models to Slash Costs」と題した記事を公開した。規制上の制約が多く、AIの本番稼働までのハードルが高いとされてきた金融業界で、英国大手銀行Lloyds Banking Groupが800のAIモデルを同時に本番稼働させているという事実は、業界内でも際立った数字だ。同行がどのような戦略的背景のもとでこの規模を実現し、2030年に向けて何を目指しているのかを以下で詳しく見ていく。
800のAIモデルが稼働中——その規模を支える基盤
Lloyds Banking Groupは現在、800のAIモデルを本番稼働させている。この数字が単なる実験的取り組みではなく、実運用に根ざしたものであることを示すのが、同行のデジタル基盤の厚みだ。約2,200万人のモバイルアプリユーザー、年間70億回のデジタルログインという規模のインフラの上にAIが乗っている。
AIによる生産性向上効果として、同行は今後10年間にわたり年間0.4〜1.2パーセントポイントの改善を見込んでいる。単年の効果ではなく10年スパンで継続的な改善を期待している点が特徴的であり、インフラ整備とAI活用を長期投資として位置づけていることがわかる。
グループCEOのCharlie Nunnは7月30日の決算説明会でこう述べた。
「インフラを大幅に近代化し、レガシーデータ資産とテクノロジーを積極的に解放してきた。こうした取り組みにより、組織は大きな変革を迅速に実行できる体制を整えた」
2021年以降、テクノロジー・データ人材を約11,000人採用している点も、この規模の展開を支える重要な背景だ。800モデルの稼働は一夜にして実現したものではなく、数年かけて築いたデータ基盤・人材基盤の産物といえる。
2022〜2026年で20億ポンドのコスト削減、2030年に向けた数値目標
AIや技術近代化は、より大きなコスト規律戦略の一部として位置づけられている。Lloydsは2022年から2026年にかけて、生産性・効率改善、テクノロジー刷新、デジタル化推進、オフィス統廃合によって20億ポンド(約2,700億円/1ポンド≒135円換算)のコスト削減を達成した。
今後の目標として、**コスト収益比率(Cost-to-Income Ratio:営業収益に対する営業費用の割合。低いほど効率的)を2026年中に50%未満、2030年までに45%未満へと段階的に引き下げる方針だ。収益性指標では、2028年に有形資本利益率(ROTE)18%超、2030年に約20%**を目指す。ROTEとは、のれんなど無形資産を除いた有形純資産に対する当期利益の比率であり、銀行の実質的な収益力を測る指標として広く用いられる。
リテール・商業銀行両面でのAI活用
AIの活用領域は業務全般に及ぶ。
リテール部門では、エージェント型AIを活用したカスタマージャーニーのスケールアップを計画している。顧客体験の向上、新規顧客獲得コストの効率化、サービスコスト削減が主な狙いだ。「エージェント型AI(Agentic AI)」とは、人間の指示を逐一受けることなく、目標に向けて自律的にタスクを実行するAIアーキテクチャを指す。単なるチャットボットとは異なり、複数ステップの処理を自律的に完結させる点が特徴で、金融機関での活用が世界的に注目されつつある領域だ。
商業銀行部門では、AIを活用したツールによるリレーションシップマネージャー(法人担当営業)の生産性強化に注力している。具体的には、与信判断の自動化スケールアップ、新規ブローカーポータルの展開、中小企業向けシンプルな決済ソリューション、サードパーティへの組み込み金融ソリューション提供などが挙げられている。
金融機関のAI本格活用という文脈
金融機関によるAI活用は、モデルのリスク管理・説明責任・規制当局への説明義務など、他業種と比較して本番稼働のハードルが格段に高い。欧州ではAI Actの施行も進んでおり、金融領域のAIモデルには厳格なリスク分類と文書化が求められる。そうした環境下での800モデル同時稼働という数字は、Lloydsのガバナンス体制も含めたシステム整備が相当程度進んでいることを示す。
類似の動きとしては、JPMorganが数千件規模のAIユースケースを社内展開しているほか、日本国内でも三菱UFJフィナンシャル・グループがAI活用を加速していることが知られている。しかしレガシーシステムの解体と人材採用を組み合わせてここまで体系的に進めた事例は、欧州の銀行の中でも際立っている。同行がレガシーデータ基盤の整理を重視している点は、日本の金融機関が抱える課題とも重なる部分が大きく、参照事例として注目に値する。
※編集部の考察:800モデルという数字そのものよりも、「年間70億回のデジタルログイン基盤の上にAIが乗っている」という事実の方が、実用規模としての意義をより正確に伝えるかもしれない。データ量と稼働モデル数が両輪として揃っている点が、他行との差別化要因と見られる。
詳細はLloyds Banking Group Mobilizes 800 AI Models to Slash Costsを参照していただきたい。