7月31日、The Next Webが「Amazon's $1.8m Claude blunder shows AI's runaway costs」と題した記事を公開した。この記事では、AmazonがAnthropicのClaudeを使った社内プロジェクトで180万ドル(約2.7億円)のコスト超過を引き起こした実例と、企業がAI利用コストを制御できない構造的な問題について詳しく紹介されている。
860%超過、5ヶ月間誰も気づかなかった
問題のプロジェクトは、Amazonのストアで著者情報と商品リストを突合する業務にClaudeを使ったものだ。このジョブが予算の860%超過で動き続け、発覚まで5ヶ月かかった。最終的にそのデプロイは失敗に終わり、180万ドルが消えた。Amazonの上級エンジニアはこの結果を「catastrophically expensive(壊滅的に高額)」と表現したという。この件はAmazon社内の会議で報告され、Financial Timesが最初に報じた。
同じ会議では2件の小規模な超過も報告されている。財務監査ツールが約54万1,000ドル、配送効率化システムが13万4,000ドルの超過をそれぞれ発生させた。
なぜ「静かに」何百万ドルも溶けるのか
この問題の本質は、AIの課金モデルがソフトウェアのエラーと根本的に異なる点にある。
従来のバグはクラッシュする。エラーログに残る。人間が気づく。
AIモデルの場合、設定ミスがあっても処理は止まらない。同じプロンプトをリトライし続けるループや、サンプルではなくカタログ全体を対象に走るジョブは、クラッシュせず請求書を生み続ける。その請求書はビルドログではなく月次サイクルで届くため、5ヶ月間見逃されるという事態が起きる。
さらに、トークン単位の従量課金がリスクを増幅させる。チャットボットよりはるかに大量のトークンを消費するAIエージェントが、この構造に追い打ちをかける。
同種の問題はAmazon固有ではない。ある開発者がOpenAIから130万ドルの請求を受けた事例もあり、トークン単価が下落しているにもかかわらず企業のAI請求額は増え続けているという逆説的な状況が業界全体で起きている。
「売っている側」が使い方を間違えた
皮肉な点がある。AmazonはAWSのBedrockで、まさにこうしたコスト超過を防ぐためのツールを他社に販売している。バッチ推論による半額処理、割引ティア(Flex)、入力コストの10分の1で使えるプロンプトキャッシュ、安価なモデルへ自動ルーティングするプロンプトルーティング——これらはすべてAWSが提供する機能だ。
モデル選択の面でも選択肢はあった。AnthropicのHaiku(軽量モデル)はSonnet(高性能モデル)の3分の1のコストで使える。今回のプロジェクトはデフォルトでフロンティアモデルを選択し、コスト制御の仕組みを設けなかった。それがAmazonとAnthropicが他社に「やってはいけない」と説いている失敗そのものだった。
Amazonの反応と内部対応
Amazonは公式には「新技術の実験と学習のプロセス」と釈明し、一部の孤立した事例が全体を代表するわけではないとした。同社の従業員数は約30万人であり、今回の事例に関わったのはごく一部のグループだ。財務インパクトも、四半期売上高が1,800億ドルを超えるAmazonにとっては誤差の範囲内だ。
AWSコストの専門家として知られるCorey Quinn氏はXに辛辣な投稿をした。
"getting a bill with two commas that you weren't expecting must be so hard for you."
(カンマが2つある予期せぬ請求書を受け取るのは、さぞかし大変だったろうね)
内部では対応が進んでいる。Amazonはすでに、社員がトークン消費量を意図的に水増しすることでランキングを上げていた——いわゆるtokenmaxxing(AIへの入力を不必要に膨らませてスコアを稼ぐインセンティブ歪曲行為)が横行していた社内リーダーボードを廃止した。エンジニアチームは現在、プロジェクトの支出に上限を設ける自動ガードレールを開発中だという。
ガバナンスの問題
Amazonにとって180万ドルは誤差だ。だが同じ構造的リスクが、AIでコスト削減を図る中小企業に刺さったとき、5ヶ月間見つからない暴走ジョブは予算の危機に直結する。今回の事例が示すのは技術的な失敗ではなく、AIコストをソフトウェアコストと同じガバナンス体制で管理しようとしたことの限界だ。
AIエージェントの普及にともない、支出上限・異常検知・モデル選択ポリシーをセットにした「AIコストガバナンス」の標準化は、業界全体の急務になりつつある。Amazonが社内で開発中の自動ガードレールがその一例だが、こうした仕組みをアドホックに各社が整備するのではなく、AWSやAnthropicといったプラットフォーム側がデフォルトで提供する形へと移行できるかどうかが、次の論点となるだろう。
詳細はAmazon's $1.8m Claude blunder shows AI's runaway costsを参照していただきたい。