7月28日、Eric Avidonが「Data management vendors race to connect AI with context」と題した記事を公開した。この記事では、AIエージェントに適切なコンテキストを接続するため、データ管理ベンダー各社が2026年前半に競うように新機能を投入している業界動向について詳しく紹介されている。
コンテキストなきAIエージェントは「推測」するだけ
AIエージェントの失敗原因は、モデルの性能不足だけではない。むしろコンテキスト(文脈・業務情報)の欠如が根本的なボトルネックになっている、というのがこの記事の核心だ。
DatabricksのリサーチディレクターであるMichael Benderskyは次のように述べている。
Without it, they're guessing. Guesswork doesn't work for enterprise businesses.
(コンテキストがなければ、エージェントは推測するだけだ。推測はエンタープライズビジネスでは通用しない)— Michael Bendersky, Director of Research, Databricks
エージェントは情報の有無にかかわらず、常に回答・行動しようとする。アクセスできるコンテキストから推論を行うため、そのコンテキストが不適切であれば、推論結果も不適切になる。
LLMの推論精度は基本的なクエリに対して100%に近づきつつあるにもかかわらず、多くのAIプロジェクトが依然として頓挫する理由がここにある。ISG Software ResearchのアナリストDavid Menningerも「エージェントが誤った行動をとるのは、必ずしも誤作動ではなく、正しい判断に必要な情報がなかったからだ」と指摘する。
Deloitteの調査では2026年初頭時点でAIプロジェクトを本番移行できている組織の割合について元記事では具体的な数値の言及がなく詳細は不明だが、Databricksの「2026 State of AI Agents」レポートでは、シングルチャットボットからマルチエージェントシステムへ移行する組織数が過去4ヶ月で327%増加したことが示されており、需要と現実のギャップが際立っている。
セマンティック層:最も注目される解決アプローチ
コンテキスト接続の手段としてベクター検索やRAG(Retrieval-Augmented Generation)の改善が進む中、今年最も主流となっているアプローチがセマンティックモデリングだ。
セマンティック層とは、データに定義や属性を付与することで組織横断的な一貫性を確保し、AIがデータを「意味」として理解できるようにする仕組みである。複数システムに分散したデータからLLMが結果を導き出す場合、セマンティック層がなければ精度は大きく低下する。しかしセマンティック層でLLMのクエリを補強すると、精度が回復することがGartnerの調査でも示されている。
ThoughtSpotのChief Data and AI StrategistであるCindi Howsonはこう表現する。
Semantic layers are the magic.(セマンティック層こそが魔法だ)
※編集部の考察:ThoughtSpot自身がセマンティック層を中核製品とするベンダーであり、この発言には利害関係が伴う点は念頭に置いておきたい。
実際の導入事例として記事が挙げるのが、サプライチェーン管理企業Blue Yonderだ。同社は2024年7月にセマンティックモデリングプロバイダーAtScaleのプラットフォームを採用し、それまで分散していたデータを再設計。AtScaleのMCP(Model Context Protocol)サーバーでセマンティック層をAIツールに接続した。MCPはAIエージェントと外部データソースやツールをつなぐための標準プロトコルで、Anthropicが提唱し各社が対応を進めている。なお、Blue Yonderの採用は2024年7月と本記事の取り上げる2026年前半よりも前の時期になるが、元記事では現在の業界動向を説明する文脈での代表事例として引用されている。Blue YonderのAnalytics EngineeringシニアディレクターJeremy Arendt氏によれば、以前は数日かかっていたクエリがほぼリアルタイムで処理できるようになったという。
また、ベンダー間でセマンティック層の標準化を目指す動きも始まっている。現状では各社が独自のセマンティック層を提供しており、相互運用ができないため、AIパイプライン構築の複雑性を増す要因になっている。これに対応するため、複数のデータ管理・分析ベンダーがオープンな業界標準の策定に向けたコンソーシアムを結成した。
各社の動向:乱立するアプローチ
2026年前半だけでも、以下のような動きが相次いだ。
- Databricks:従来のRAGに対しユーザー指示などのパラメータを加えて検索精度を向上させる「Instructed Retriever」を1月に投入。6月にはコンテキスト層構築ツールも追加
- MongoDB:ベクター埋め込みモデルとリランキングモデルを新たに公開し、ベクター検索の関連性を改善
- Teradata:ベクター検索を改善し、コンテキストの発見と実運用化を推進
- AWS、Google Cloud、Microsoft、Snowflake:6月にそれぞれエージェント向けコンテキスト層の構築を支援する新ツールを発表
- その他:Alteryx、GoodData、Informatica、Tableau、ThoughtSpotなども同様の方向で製品開発を進める
コンテキスト配信は「エンジニアリングプロジェクト」であってはならない
Benderskyはさらに重要な視点を提示する。コンテキスト検索システムを構成する要素(発見・取得・アクション)はすべて単一の統合環境で提供される必要があるという。
バラバラに実装した場合、ユースケースごとに手動で再構築しなければならない複雑なエンジニアリング作業になる。
Context delivery needs to be a platform capability, not an engineering project. This means access controls, lineage and auditability need to be built in… because how your agent got its context matters as much as what it said.
(コンテキスト配信はプラットフォームの機能であるべきで、エンジニアリングプロジェクトであってはならない。アクセス制御、データリネージ、監査可能性が組み込まれている必要がある。なぜなら、エージェントがどのようにコンテキストを取得したかは、エージェントが何を言ったかと同じくらい重要だからだ)
セキュリティ面では、Oracleがエージェントによるデータアクセスの高速化・大規模化が新たなリスクをもたらすとして、OSレベルではなくデータ層でのセキュリティ適用が必要だと強調した点も言及されている。ゼロトラストのエージェントセキュリティフレームワークにより、エージェントは自身を初期化した人間ユーザーのセキュリティ権限を超えられない設計が求められる。
詳細はData management vendors race to connect AI with contextを参照していただきたい。