7月29日、Los Angeles Timesが「Thousands of customer service workers face the axe as AI takes over」と題した記事を公開した。この記事では、AIによるカスタマーサービス職の大規模代替が企業の現場で本格化しており、世界中のコールセンター従業員が職を失い始めている実態について詳しく紹介されている。
「コスト削減」が本音——AI導入の実態
長年、コールセンター業界にはAIによる自動化の脅威が漂い続けてきた。しかし、生成AIの精度が実用水準に達したここ数年で、状況は一変した。
Commonwealth Bank of Australia(オーストラリア最大の銀行)、Microsoft、Uber、Hyatt Hotelsといった大手企業が、従来は人間が担っていたチャット・電話対応をAIシステムに置き換えており、すでに数千人規模の雇用が失われている。
業界でよく聞かれる「AIは人間の生産性を高めるツールだ」という主張に反して、元記事がBloomberg報道を引用する形で紹介しているところによると、複数のテック企業の営業担当者が、コールセンター向けAIツールを労働コスト削減の手段として顧客企業にピッチするのが常態化していると語ったという。
各社の具体的な数字
企業ごとの削減規模は、数字で見ると実態がよく分かる。
Commonwealth Bank of Australia:AIをチャットサポートに組み込み、数百人のコントラクターを削減。年間数千万ドル規模のコスト削減を達成したという。削減された多くのポジションは、南アフリカのヨハネスブルク郊外にあるアウトソーシング企業Nutunのコールセンターに勤務していたコントラクターだった。同行のスポークスパーソンはオーストラリア国内のコールセンターで140以上のポジションを追加したと説明しているが、削減との関係は明らかではない。
Microsoft:同社のカスタマーサービス人員(コントラクターと正社員の合計)は、近年約5万人から4万人に削減された。営業・サービス担当のJudson Althoff氏は、AIによって年間約7億5000万ドルのコスト削減が実現していると4月に発言している。「夜中に子どものXboxで何かが起きても、今やAIで解決できる」と同氏は述べた。
Uber:元記事がBloomberg報道として紹介しているところによると、カスタマーサービス部門で10%の人員削減を実施。ユーザーはアプリ上のAIチャットボットに誘導される仕組みになっている。
Hyatt:AIで予約変更や領収書対応などの単純タスクを自動化し、コスト削減を進める。昨年、米大陸の社内カスタマーサポートスタッフを30%削減した。同社はAI導入との関係を否定しているが、AI・データ分析部門のPat Nestor氏はコスト削減が「このような取り組みの明確な推進力だ」と明言している。なおHyattが活用するAIはSierraというスタートアップのもので、OpenAI会長のBret Taylorが2023年に共同創業した。
Brink's Home Security:AIでコール量を約3分の2削減した後、コールセンタースタッフを800人から400人に半減。自然減や他部門への異動でカバーしたという。
直撃を受けるのはインドとフィリピン
特に深刻な影響を受けるのが、英語力が高く人件費が低いインドとフィリピンだ。Forresterのアナリスト、Kate Leggett氏は今年初めのレポートで、2030年までにカスタマーサービス職の約半数がAIの影響を受けると推計している。
税務サービス企業1-800AccountantのチーフストラテジーオフィサーであるRyan Teeples氏は「今、インドやフィリピンへの投資家にはなりたくない。そこでAIによる最大のコスト削減が起きているからだ」と率直に述べた。同社は来年、海外アウトソーシングへの支出を50%削減する計画で、SalesforceのAgentforceなどのツールで単純タスクを自動化している。
アウトソーシング大手も警戒感を強めている。Teleperformance SE、Concentrix Corp.、TTEC Holdings Inc.といった企業の株価はすでに急落しており、Concentrixは年次報告書で「クライアントが導入するツールによって一部の低複雑度サービスが代替されており、今後もそれが続く可能性がある」と明記した。
「残る仕事」と「消える仕事」の境界線
現在、削減対象となっているのは主に「ティア1(Tier 1)」と呼ばれる最も単純な問い合わせ対応だ。口座残高の確認、フライト変更、営業時間の案内といった定型業務がこれに当たる。
一方、重要な顧客との複雑なやり取りや、感情的な配慮が求められるエスカレーション対応(顧客が初期対応に不満を持ちより上位の担当者や部門へ問い合わせをエスカレートする対応)を担う人材は引き続き必要とされるとされている。しかしMicrosoftは「自動対応できる範囲を常に拡大している」と述べており、その境界線は今後も移動し続ける見通しだ。Forresterの前出Leggett氏は、AIが高度な問い合わせへの対応精度を高めるにつれ、「残る仕事」の領域そのものが縮小していく可能性を指摘している。
関連リンク
- Sierra(Hyatt採用のAIカスタマーサービスプラットフォーム)
- Salesforce Agentforce
- Teleperformance SE
- Concentrix Corp.
- TTEC Holdings Inc.
詳細はThousands of customer service workers face the axe as AI takes overを参照していただきたい。