7月28日、SiliconANGLEが「Fish Audio makes a splash after raising $52M seed funding for AI voices」と題した記事を公開した。AI音声合成スタートアップのFish Audioがシードラウンドで5,200万ドル(約52億円)を調達した。テキスト読み上げ(TTS)市場ではElevenLabsが評価額110億ドルの巨人として君臨するが、Fish Audioはオープンソースコミュニティで培った技術力とARR 2,100万ドルという収益実績を武器に、その牙城に切り込もうとしている。
寝室の1台のGPUから始まった会社
Fish Audio(正式社名:Hanabi AI Inc.)の共同創業者でChief ScientistのShijia Liaoは、もともとNvidiaで映像研究者として働いていた。AIモデルの単調なロボット音声に嫌気が差したLiaoは、自室のラップトップに搭載された1枚のGPUだけを使って音声AIモデルのトレーニングを始めた。
その成果物が、オープンソースのTTS(Text-to-Speech)プロジェクトFish Speechだ。GitHubで3万1,000以上のスターを獲得し、インディー開発者、コンテンツクリエイター、ゲーム開発者の間で急速に広まった。2023年のローンチ以降、Fish Audioは包括的な音声AIプラットフォームへと成長している。
プラットフォームのスペック
Fish Audioの現在の旗艦モデルS2.1 Proは、ブラインドリスニングテストにおいて他社モデルを上回る結果を示している。67%のリスナーがFish Audioの音声出力を他社より好んだという。なお、このテストはFish Audio自身が公式ブログで公開したものであり、独立した第三者機関による検証ではない点は留意が必要だ。
主な仕様は以下のとおりである。
- 5秒の音声クリップから15秒以内に声のクローニングが可能
- 83言語のネイティブサポート
- 1万5,000以上の自然言語プロンプトによる単語レベルの感情制御
- トーン、抑揚、ペーシングの細かなチューニングが可能
ユーザー数は800万人を超え、年間経常収益(ARR)は2,100万ドルに達している。
調達ラウンドの概要と競合との比較
今回のラウンドはCoreline VenturesとCapital Todayが主導し、359 Capital、HF0、645 VenturesなどのVCのほか、複数の匿名エンジェル投資家が参加した。
音声AI分野では、ElevenLabsが今年2月に5億ドルの調達で評価額110億ドルを達成している。Fish Audioの5,200万ドルはシードラウンドとしては大規模であり、ElevenLabsとの差は資金面では依然として大きい。ただし、ElevenLabsが潤沢な資金を背景にエンタープライズ営業や多言語拡張を進める中、Fish Audioはオープンソース由来のコミュニティ基盤とARR 2,100万ドルという収益実績を携えての調達であり、グロースの質という観点では注目に値する。元記事では価格帯やレイテンシといった技術仕様の直接比較には踏み込んでいないが、投資家コメントでは「コストの面で圧倒的な実績を積み上げた」と言及されている。
調達資金の使途
Fish Audioは今後、TTSにとどまらないフルオーディオネイティブスタックの構築を目指す。具体的には以下を計画している。
- 音声ネイティブLLM(大規模言語モデル)の開発
- リアルタイム音声間翻訳ツールの構築
- Retell AIやLiveKitなどのパートナーを通じたAPI連携の強化
- エンタープライズ営業チームの設立
- 8月末より、旗艦モデルS2.1 Proを公式API経由で開発者に無償提供予定
当初はゲーム開発者やコンテンツクリエイター向けであったが、現在はヘルスケアや金融サービスなどの規制産業向けに、HIPAA準拠・データ非保持のオンプレミスデプロイも提供している。
CEO・投資家のコメント
CEO Rissa Caoは「初心者クリエイターから大企業まで、すべてのユーザーに高品質な人間らしい音声を届けたい。モデルを改善し続ければ、人々は気づいてくれると信じていた。800万人が気づいてくれた」と述べている。
Coreline VenturesのManaging PartnerであるOsuke Hondaは「音声はAIシステムのデフォルトインターフェースになりつつある。Fish Audioはパフォーマンス、多言語対応、感情表現、コストの面で圧倒的な実績を積み上げた」とコメントしている。
詳細はFish Audio makes a splash after raising $52M seed funding for AI voicesを参照していただきたい。