7月28日、CNBCが「The future of Wall Street is here as startups and brokers build AI agents to trade 24/7」と題した記事を公開した。ウォール街でAIエージェントが24時間365日自律的に取引を行う「エージェント型投資」の現状と課題について詳しく紹介している。
「全員が自分専用のファミリーオフィスを持つ」時代
Citizens社のフィンテックリサーチ責任者、Devin Ryanは記事中でこう述べている。
「実質的に誰もが、自分のために24時間働いてくれるファミリーオフィスを持てるようになる。これは10年先の話ではなく、数年以内に来る。」
ファミリーオフィスとは、超富裕層が資産管理のために設ける専任チームのことだ。通常、億単位の資産を持つごく一部の層にしか縁のない仕組みが、一般投資家にも開放されるという構図である。
Ryanが描くビジョンはさらに広い。AIが株の売買にとどまらず、税務管理・現金残高・借入・住宅ローン・投資ポートフォリオを、個人の目標に合わせて継続的に最適化する。そして彼は「来年末までに、一部プラットフォームでは取引件数の過半数をエージェントが担うようになる」と予測する。また、現在は月2回程度取引する個人投資家が、エージェント型モデルの下では取引頻度が大幅に増加し、「取引量が最低でも10倍になる」とも見積もる。
各社のアプローチ:完全自律より「人間が最後に決める」
現在のところ、完全自律型の取引システムを一気に構築しようとする企業は少数派だ。多くは段階的なアプローチを取っている。
Podium Markets AIのAIアシスタント「Ivy」は、複数の証券口座をまたいでポートフォリオを分析し、目標やリスク許容度に基づいた推奨を提示する。ただし、売買の実行はユーザー自身が行う。同社CEO、Dirk Mueller-Ingrandは「AIが情報を提供し、人間が決断する」と明言している。
Robinhoodは2026年5月、サードパーティのAIエージェントが顧客口座に接続できるツールを公開した。Publicは自社内でAIエージェントを開発中で、ユーザーがワークフローを事前に確認・承認してから実行される仕組みを採用している。
「AIエージェントが独自の判断を持つことはない。実行するだけだ。」(Publicの共同創業者 Leif Abraham)
こうした「人間による最終承認」を残す設計は、技術的な限界からだけでなく、規制上の要請とも密接に絡む。米国ではSEC(証券取引委員会)やFINRA(金融業規制機構)がAIを用いた投資助言・自動売買に対する監督指針の整備を進めており、完全自律型システムに対する規制上の扱いはまだ確立していない。既存の投資顧問法(Investment Advisers Act of 1940)の枠組みでAIエージェントをどう位置づけるかは、業界全体が直面する未解決の問いである。
また、HFT(高頻度取引)との違いも整理しておく必要がある。HFTは主にミリ秒単位のアルゴリズム取引で機関投資家が市場の価格差を狙うものだが、エージェント型投資は個人投資家の長期的な資産目標や税務状況を踏まえた「目標ベースの自律管理」を指向している点で性格が異なる。
個人投資家のリアルな実験結果
ウォール街が基盤を整える一方、個人投資家はChatGPT登場(2022年末)以降、汎用AIを使った投資実験をすでに3年近く続けている。
成功例に近いのは、フィンテック教育プラットフォームの創業者Obioha Okereke(29歳)だ。AnthropicのClaudeを使って「ヘッジファンドアナリストとして割安株とオプション機会を探せ」と指示するエージェントを構築した。ただし、すべての推奨を自分でレビューしてから発注している。Claudeのようなモデルはツール使用(Tool Use)機能を通じて外部APIと連携できるため、リアルタイムの株価データや財務情報を取り込んだエージェント構築が現実的な選択肢になりつつある。
一方、失敗例はAIシステム構築会社の創業者Thomas Schlossmacher(31歳)だ。「AIが収益性のあるパターンを発見できる」というオンラインの主張を見て取引エージェントをテストしたが、「一貫して損失を出し続けた」と語る。
「自動化システムに使ったり、エージェントに任せきりにするなら、プロを使った方がいい。『金を稼いでくれ』と盲目的にエージェントに投げるのは、正直バカげていると思う。」(Schlossmacher)
最大の課題:「意図」をどう伝えるか
エージェントに株の売買を教えることは技術的に難しくない。問題は、投資家が「何を意味しているか」を正確に解釈させることだ。
「積極的にポートフォリオを増やせ」という指示一つ取っても、ボラティリティの受け入れ、集中投資、オプション活用、損失リスクの許容など、解釈は複数ある。AIが指示に忠実に従っても、投資家が意図しない結果を招く可能性がある。
Citizens社のRyanはこう警告する。「顧客の最善の利益が常に最優先でなければならない。エージェントが想定通りに動かなければ、それは企業にとってのリスクになる。」
ガードレール(安全装置)の設計が、この分野の技術的・規制的な核心課題として浮上している。AIエージェントの信頼性・説明可能性をどう担保するかは、LLMの「ハルシネーション」問題とも切り離せない論点であり、金融という高リスク領域での実用化には、モデルの精度向上と並行して制度設計の成熟が不可欠だ。
詳細はThe future of Wall Street is here as startups and brokers build AI agents to trade 24/7を参照していただきたい。