7月27日、Hayete Gallotが「Rethinking security for the age of AI」と題した記事を公開した。MicrosoftがAI時代のサイバーセキュリティを再構築するエージェント型セキュリティシステム「Project Perception」の概要を紹介している。
「攻撃のコストが下がり、防御の複雑さが増す」という前提
記事の出発点は単純だ。AIによって攻撃側のコストが大幅に下がり、エクスプロイトの生成速度・キャンペーンの規模・運用効率が飛躍的に向上している。一方、防御側が守るべき対象(アイデンティティ、エンドポイント、クラウド、AIシステム等)は増え続けている。
Hayete Gallotは「人間のアクターを前提に設計されたアプローチは、AIとエージェントと機械速度の攻撃には対応できない」と明言し、新たな「Cyber Stack」の必要性を提唱する。
Project Perceptionとは何か
Project Perceptionは、そのCyber Stack構想を体現するエージェント型セキュリティシステムだ。2026年8月3日にパブリックプレビューが開始される。
コアとなる設計思想は「攻撃者がどう見えるか、防御者がどうリスクを評価するか、どう防御を改善するか」を継続的に理解することだ。この目的のために、3種類の専門エージェントを組み合わせて動作する。
- Red teamエージェント: 攻撃者が悪用する前に侵害経路を特定する
- Blue teamエージェント: コンテキストを跨いで調査・推論し、意味あるリスクを判定する
- Green teamエージェント: 修正アクションを実行し、環境全体の防御を強化する
この3チームがクローズドループを形成し、組織のセキュリティ体制を継続的に発見・評価・改善する。従来のセキュリティ運用が「人間のアナリストが警告を受け取り、手動で対応する」という逐次的なサイクルに依存していたのに対し、Project Perceptionは攻撃・防御・修正の3軸を並列かつ自律的に回すことで、機械速度の脅威に機械速度で対応する設計となっている点が大きく異なる。
最も注目すべき点:MAI-Cyber-1-Flashの性能と50%のコスト削減
技術的に最も具体的な数字が出ているのが、マルチモデル戦略の部分だ。
Microsoftは自社開発の専門サイバーモデル「MAI-Cyber-1-Flash」をソフトウェア脆弱性管理システム「MDASH」(Microsoft独自のソフトウェア脆弱性管理プラットフォーム)に組み込んだ。この構成を業界標準ベンチマーク「CyberGym」(サイバーセキュリティAIの能力評価に用いられるベンチマーク)で評価したところ、96%スコアを達成し、競合モデル「Mythos」を**+12ポイント上回った。さらに、現行のMDASH構成と比較して約50%のコスト削減**を実現したという。
「最も高性能なモデルを一つ使えば良い」という発想ではなく、タスクごとに最適なモデルを選択するマルチモデルアーキテクチャの有効性を示した結果だ。性能向上とコスト削減を同時に達成している点は、エンタープライズ展開における現実的な障壁を意識した設計であることを示唆している。今後はMAI-Cyber-1-Flashをソフトウェア脆弱性管理以外の多くのセキュリティワークフローにも展開する予定だとしている。
新しいCyber Stackの6層構造
Project Perceptionを支えるアーキテクチャは6層で構成されている。
- Signals and sensors — エンドポイント、アイデンティティ、データ、クラウド、アプリ、AIシステム全体の可視性
- Context — シグナルをエージェントが利用できるトークン効率の高い理解に変換する継続的インテリジェンス
- Models — 脅威を推論するためのマルチモデルアプローチ
- Harness — エージェントとモデルをオーケストレーションするフレームワーク
- Agents — 継続的に防御するRed/Blue/Greenチームの専門エージェント
- Actuators — エージェントの判断を実際の防御アクションに変換する機構
従来のSIEM(セキュリティ情報・イベント管理)やSOAR(セキュリティオーケストレーション・自動応答)のアーキテクチャが「ログ収集→ルールベースの検知→人手対応」という直列フローを前提としていたのに対し、この6層構造は各層が双方向に連携しながらエージェントループを支える点で設計思想が根本的に異なる。
特に「Context」層の設計は重要だ。エージェントが毎回生シグナルから情報を収集・相関・再構築する必要がなくなり、アセット・アイデンティティ・リスク・アクティビティのほぼリアルタイムの表現を即座に参照できる。これにより推論の精度と一貫性を高めつつ、スケール運用に必要なコンピューティングコストを削減するとしている。
責任あるAIと人間の制御
記事ではセキュリティ自動化の懸念に対する回答も示している。Project PerceptionはMicrosoftのResponsible AI原則に準拠して構築されており、既存のセキュリティ・コンプライアンス・ガバナンスの統制を継承する。また、エージェントが自律的に動作しながらも「humans firmly in control(人間が確実に制御を維持)」することを設計上の前提としている点が繰り返し強調されている。
詳細はRethinking security for the age of AIを参照していただきたい。

