7月28日、1Passwordが「1Password's research finds AI agent adoption is outpacing governance」と題した記事を公開した。IT・セキュリティ専門家500名と開発者500名、計1,000名を対象にした調査から浮かび上がるのは、AIエージェントはほぼ全社に広がっているのに、それを安全に管理する体制がほとんど存在しないという構図だ。「使えと言われているのに、安全な方法がない」という開発者の板挟み状態が、定量データとして明確に示されている。
9割の企業がAIエージェントを使っているのに、ガバナンスが追いついていない
具体的な数字を並べると、その深刻さがよくわかる:
- 46%の開発者が本番環境でAIエージェントを利用中
- **91%**が現在使用中か2年以内に使用予定
- 89%の米国企業でAIエージェントの利用が「必須・奨励・許可」されている
- 一方で、**62%**のIT・セキュリティ担当者がエージェント管理に「ガバナンスのギャップがある」と回答
つまり、ほぼ全員が使っているのに、使い方を安全に管理できていると言える組織はごく少数だ。
「使えと言われているのに、安全な方法がない」
この調査で最も際立つデータポイントは、開発者の置かれた矛盾した状況だ。
65%の開発者が「AIエージェントを使うことを期待・奨励されている」と回答している。しかし、**「安全な方法がある」と答えたのはわずか33%**にとどまる。
開発者たちは、自分たちが安全ではないやり方で動いていることを自覚しながら、それを変えるためのツールも仕組みも与えられていない状態にある。1PasswordのVP兼セキュリティストラテジスト、Jason Mellerはこう指摘する:
「セキュリティツールは20年間、人々に"スローダウンしろ"と言い続け、人々は20年間それを拒否し続けた。開発者にもっとトレーニングが必要だというのは教訓の読み違えだ。安全なやり方が、簡単なやり方にならない限り、それは実行されない」
クレデンシャル管理の実態:ハードコードとSlack共有が横行
AIエージェントは、他システムとの連携にAPIキーやサービスアカウントといった非人間アイデンティティ(NHI: Non-Human Identity)を使う。このNHIの管理が根本的に破綻している。
調査によると、シークレット(APIキー、トークン等)の取り扱い方は以下の通りだ:
| シークレットの管理方法 | 全体 | IT・セキュリティ | 開発者 |
|---|---|---|---|
| 専用シークレットマネージャー/Vaultに保存 | 60% | 64% | 57% |
| コードやスクリプトに直接ハードコード | 25% | 26% | 24% |
| Slack・メール等でチームメンバーと共有 | 23% | 27% | 20% |
| 平文のままリモートリポジトリに保存 | 26% | 30% | 22% |
| 安全・非安全の混在(NET) | 64% | 68% | 59% |
表の通り、安全な管理手段と危険な管理手段を混在させている組織は全体の64%に上る。43%の開発者が専用のシークレットマネージャーやVaultを使っていない。
そして問題なのは、こうした慣行がそのままAIエージェントへの認証情報付与にも持ち込まれていることだ。40%の開発者が、タスク完了後も失効しない「永続的アクセス権」をエージェントに付与している。
NHI関連のクレデンシャル問題は既に実害を生んでいる。86%の回答者がNHI絡みのクレデンシャル問題を経験済みで、27%が「過剰権限のアイデンティティに起因するセキュリティインシデントまたは侵害」を経験している。AIエージェントを使う開発者に限定するとこの数字は**33%**に跳ね上がる。
あるネットワーク管理のシニアエンジニアは次のように証言する:
「先四半期、AIエージェントが期限切れのクレデンシャルを使っていたせいで大規模なシステム障害が起きた。誰も気づかず、システムが壊れて初めて発覚した。非人間アカウントの監査証跡がほぼ存在しないため、原因追跡に膨大な時間がかかった」
エージェントは「許可されていないデータ」にも触れている
71%の回答者が、AIエージェントが顧客データ・機密IP・HR情報にアクセス可能な状態にあると回答している。
さらに深刻なのは、エージェントが実際にアクセスしているデータの範囲だ。調査では、AIエージェントは許可されたデータと比べて、実際にはおよそ2倍の範囲のデータにアクセスしていることが示された。社内システム、HRデータ、規制対象データなど、あらゆるカテゴリにわたってこの傾向が見られる。
41%の組織で、エージェントが未承認のデータにアクセスしていることが確認されている。
また、どのエージェントがどのクレデンシャルを使っているか可視化できていないという問題も大きい。71%の回答者がクレデンシャル使用に関して「可視性のギャップがある」と回答。「自社のアプローチは高度にセキュア」と答えた人の中でも、50%が可視性のギャップを認めている。さらに、**IT・セキュリティ担当者の33%**が「社内でNHIやエージェントが何件使われているか把握していない」と回答した。
プロンプトインジェクションによる意図しない動作も頻発
47%の開発者が、信頼できないコンテンツ(Webページ、ドキュメント、メール、ツール出力)に埋め込まれた指示をエージェントが実行し、意図しない動作が発生した経験を持つ。これはいわゆる**プロンプトインジェクション攻撃だ。さらに、74%の開発者**がAIエージェント利用に起因する「意図しない結果」を目撃している。
調査が示すガバナンスの空白と、現場への示唆
この調査が提示するのは、現場の肌感覚ではなく定量データだ。「AIエージェントを入れろ」という経営圧力と「安全に使う仕組みがない」という現場の現実の間で、開発者とIT・セキュリティ担当者が板挟みになっている構図が浮かび上がる。
エージェントの導入スピード自体を落とすことは現実的でないとしても、NHIの管理方法、アクセス権の最小化、監査ログの整備といった基盤なしに進めることのリスクは、この調査が示す通りすでに顕在化している。
詳細は1Password's research finds AI agent adoption is outpacing governanceを参照していただきたい。