7月28日、CSO Onlineが「Microsoft unveils multi-model agentic cyber stack for security operations」と題した記事を公開した。熟練アナリストが担ってきたSOCの中核業務——脅威インテリジェンスの解析、自組織への影響調査、対応手順の実行——を、複数のAIエージェントが自律的に引き受ける。Microsoftが開発したマルチエージェント型サイバーセキュリティスタック「Project Perception」は、そうした構想を具体的なシステムとして示した点で注目に値する。
SOC自動化という文脈:なぜ今なのか
セキュリティオペレーション(SecOps)における人手不足と、脅威インテリジェンスの処理量増大は業界全体の構造的課題だ。新たな脅威アクターが出現するたびに、アナリストはIoC(侵害の痕跡)やTTP(戦術・技術・手順)を読み解き、自組織への影響範囲を手作業で調査しなければならない。この業務フローは熟練度への依存が高く、スケールしにくい。
Project Perceptionはこの課題に正面から向き合い、熟練アナリストが行うような「新規脅威への対応調査」そのものをエージェント化しようとするシステムだ。MITRE ATT&CKフレームワークで日常的に扱われるIoCやTTPの処理を自動化することで、SOCワークフローへの直接統合を狙っている。
DARPAのAIサイバーコンテスト優勝メンバーが開発
Project Perceptionの技術的な核心は、FORGE(Frontier Offensive Research & Generative Exploration)と呼ばれるMicrosoft内部チームにある。このチームはジョージア工科大学のTaesoo Kim教授が率い、現役・OBのPhD学生を多数擁する。
FORGEメンバーの多くは、**DARPA AIxCC(AI Cyber Challenge)**の優勝チーム「Team Atlanta」の出身だ。AIxCCは、重要なオープンソースソフトウェアのセキュリティ確保を目的とした自律型AIシステムを開発する2年間のコンテストであり、その優勝メンバーがそのままMicrosoftのセキュリティ研究チームを構成しているという構図になっている。なお、Project Perceptionの開発主体はMicrosoftであり、FORGEはその中核を担う内部チームという位置づけだ。
FORGEが開発したMDASHがProject Perceptionの技術的基盤となっている。MDASHは2025年5月に先行発表されたシステムで、複数の大規模言語モデルを組み合わせてセキュリティタスクを自動処理するマルチモデル基盤として設計されている。Project PerceptionはこのMDASHの上に、SOC業務向けのエージェント協調レイヤーを実装したものと位置づけられる。
「レッド・ブルー・グリーン」の3チームエージェント構成
Project Perceptionのアーキテクチャで最も興味深い点は、複数の専門エージェントが役割分担して協調動作する設計だ。セキュリティ業界で広く知られる「レッドチーム(攻撃側)/ブルーチーム(防御側)」という概念をそのままエージェント設計に落とし込んでいる。
システムは以下の3種類のエージェントで構成される:
- レッドチームエージェント:攻撃者視点での脅威分析・侵入テスト相当の処理を担い、既知の攻撃手法と照合しながら自組織の弱点を探索する
- ブルーチームエージェント:防御・検知・インシデント対応を担い、脅威の影響範囲の特定や対処策の実行を行う
- グリーンチームエージェント:レッド・ブルー両チームの知見を横断的に統合し、対応状況の評価や優先順位付けを行う調整役として機能する
これらのエージェントはそれぞれ専用のプレイブック(対応手順書)を持ち、タスクに応じて適切なエージェントに処理が自動分配される。人間のアナリストが個別の手順を都度指示する必要がなく、プレイブックに沿った判断と実行がエージェント側で完結する設計だ。
実際のデモシナリオ:脅威インテリジェンスレポートへの対応
ローンチイベントでMicrosoftが公開したデモ動画では、以下のようなシナリオが示された:
- 新しい脅威アクターに関する脅威インテリジェンスレポートが届く(IoC=侵害の痕跡、TTP=戦術・技術・手順を含む)
- 人間のセキュリティアナリストがPerceptionに対して「自組織がこの脅威グループに対して保護されているか調査せよ」と指示する
- システムが自動的にタスクを各エージェントに分配し、対応するプレイブックを実行する
人間が行うのは最初の指示出しのみで、あとはエージェント群が自律的に動く設計だ。このフローは、現在のSOCにおける「レポートを受け取る→影響を調査する→対応策を講じる」という典型的な業務サイクルをそのままエージェントに委譲しようとするものだ。
知識グラフが全体を支える基盤
Project Perceptionが複数エージェントの協調を成立させる鍵は、セキュリティグラフにある。Microsoftが持つ広範な脅威インテリジェンス、セキュリティテレメトリ(監視データ)、顧客環境の情報を統合して構築した複合的なグラフ構造で、各エージェントはこの知識を参照しながら判断・実行を行う。
個々のエージェントがサイロ化して動くのではなく、共有された知識ベースを土台に協調することで、レッド・ブルー・グリーンの各視点が有機的につながる設計になっている。エージェント構成とプレイブック駆動の組み合わせは、既存のSOCワークフローやMicrosoft Sentinelなどの既存ツールとの統合も意識したものと読める。
詳細はMicrosoft unveils multi-model agentic cyber stack for security operationsを参照していただきたい。