7月29日、Latent Spaceが「Codex from 0 to 10M Users: Building ChatGPT Work」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIのChatGPT WorkプロダクトエンジニアリングリードであるAkshay Nathanが語る、Codexが0からユーザー1000万人に至るまでの軌跡と、コーディングエージェントがナレッジワーク全般へと「脱出」していった過程について詳しく紹介されている。
最大の驚き:Codexユーザーの20%はエンジニアではない
OpenAI内部でまず驚きとして語られているのが、Codexがエンジニア以外に急速に普及したという事実だ。元記事によれば、Codexのユーザーベースの約20%はナレッジワーカー(エンジニアではない)で、その成長速度は開発者ユーザーの3倍以上だったとAkshayは明かす。「TOP2割」ではなく、ユーザー構成比として約2割がエンジニア以外という数字であり、OpenAIにとっても想定外の広がりだったという。
これを受けてOpenAIは、Codexを基盤にしつつも、エンジニア以外向けに設計した「ChatGPT Work」を正式ローンチした(元記事では7月9日の日付が示されている)。ローンチからわずか2週間弱で、ChatGPT WorkとCodexの合算ユーザー数は1000万人を突破している。Codex自体のMAU(月間アクティブユーザー)は2026年1月比で10倍以上に増加している。
同じ「エージェントハーネス」、異なるUX
技術的に興味深いのは、CodexとChatGPT Workが同一の「エージェントハーネス(agent harness)」を共有しているという設計だ。エージェントハーネスとは、エージェントがどのツールを呼び出し、どの順序でタスクを実行するかを制御する基盤のことで、両製品はこの中核部分を共通化しつつ、UXだけを分けるアプローチを取っている。
Codexはエンジニア向けにGitの可視性やサンドボックスの詳細な制御が前面に出るが、ChatGPT WorkではそれらをUXレベルで抽象化し、「成果を言葉で記述する」だけで動くように設計されている。Akshayは「別製品を作ることもできたが、ユーザー体験の分断を避けるために統合を選んだ」と語っている。
なぜナレッジワーカーが動いたか
ナレッジワークは数十年にわたり「ドキュメントで書く・スプレッドシートで分析する・スライドで発表する」という断片化されたワークフローで成り立ってきた。ChatGPT Workはこれらすべての「プリミティブ(原始的な作業単位)」をエージェントで横断できるようにする、というのがOpenAIの主張だ。
具体的には:
- Sites(インタラクティブなウェブサイト):スプレッドシートやデッキの代替として、動くウェブアプリを生成して共有する
- Artifacts(成果物):ドキュメント・スプレッドシート・コードなどをエージェントが直接生成・編集する
- Sub-agents(サブエージェント):複数のエージェントが並列でタスクを処理し、ユーザーには必要な情報だけを見せる
- Memory / Chronicle:長期的なコンテキストを保持し、パーソナライズされた継続的なサポートを実現する
- Persistent computers(永続的なコンピューティング環境):スケジュールタスクやバックグラウンド処理を可能にする
「OpenClaw」が示した個人エージェントの方向性
ChatGPT Workの設計に影響を与えた内部プロダクトとしてOpenClawが紹介されている。OpenClawは個人エージェントの実験的製品で、「ChatGPTをOSのように使う」という思想、すなわち財務計画・食事管理・家計管理・ワークアウト計画などを一括してエージェントに委任するコンセプトを具体化したものだ。単なる社内実験にとどまらず、このプロダクトから得た知見がChatGPT Workにおける永続的な実行環境やスケジュールタスクの設計に直接活かされているという点で、現行製品の思想的な原型と位置づけられる。
プロダクト開発そのものの変化
Akshayは後半で、AI自体がプロダクト開発の形を変えていると指摘する。
- 「コミット数」や「トークン数」で生産性を測るな。意味のある進捗かどうかを問う「quality at-bats(質の高い試み)」で測れ
- AIが生み出す「動き(motion)」と、実際の「進捗(progress)」を区別することが重要
- アイデアとセンス(taste)が希少資源になる。誰でもビルドできるようになれば、何を作るかを決める能力が差別化要因になる
- LLMは「新しいアイデアを持ってきて」という指示を今も苦手とする。人間の判断が必要な領域だ
なお「quality at-bats」はMLBの野球用語に由来するビジネス比喩で、打席数ではなく「意味のある打席」の質を問う表現だ。闇雲にコードを生成させるのではなく、一つ一つの試みが本当に進捗につながっているかを問う姿勢を指している。
Akshayのキャリアは、AIなしで「ノーコード」を実現しようとしたAirtable時代から始まり、LLMによって「コードを書かずに何でもできる」時代が到来したという流れで一貫している。コードを書ける人は全人口の1%以下だが、コードを活用できれば恩恵を受ける人は桁違いに多い——この視点がChatGPT Workの根本的な設計思想だ。
詳細はCodex from 0 to 10M Users: Building ChatGPT Workを参照していただきたい。