7月28日、Ars Technicaが「ChatGPT starts blocking direct requests to copy an author's style」と題した記事を公開した。プロンプトエンジニアリングの定番手法として広く使われてきた「〇〇風のスタイルで書いて」という指定が、ChatGPTで突然通じなくなりつつある。ライターやコンテンツ制作者が日常的に頼ってきたワークフローが崩れ始めた背景には、著作権をめぐる業界全体の地殻変動がある。
ChatGPTが著者スタイルの模倣リクエストを制限開始
OpenAIのChatGPTが、特定の著者の文体を直接模倣するよう求めるリクエストへの応答を制限し始めた。これまで広く使われてきた「〇〇風のスタイルで書いて」といったプロンプトに対し、ChatGPTは現在、実行を断るか別の表現に誘導するケースが増えている。
重要なのは、元記事のタイトルにも示されている通り、これは完全な拒否ではなく「類似した感じは出せる(may capture a similar feeling)」という誘導を含む点だ。「Stephen King風に書いて」という直接指定は断りつつも、「サスペンスフルで心理的な緊張感のある文体で」といった迂回的な表現には応じるケースがある。ユーザーにとっては、プロンプトの書き方を根本的に見直す必要が生じている。
この変化はユーザーの間でも認識されており、Redditユーザーの Dazzling-Major-5620 は次のように書き込んでいる。
「Now Ms. GPT says she can't generate content in the style of specific authors. My prompts were soooo specific and I got exactly what I wanted out of them… I have no idea how to get around this other than maybe feed it prose I already edited that's technically mine?」
— Reddit (/r/WritingWithAI)
「PromptBaseやMediumなどのプラットフォームで共有・販売されてきた『著名作家風』プロンプトの資産価値が一夜にして失われた」という声もあり、プロンプトを工夫して望みの結果を得ていたユーザーにとっては、実質的な機能の後退として受け取られている。
背景:著作権と「スタイル模倣」をめぐる圧力
この動きの背景にあるのが、著作権や競争上の問題をめぐる業界全体の緊張だ。作家の職能団体であるAuthors Guildはベストプラクティス文書の中で、「他の著者の独自のスタイルや声を意図的に模倣するためにAIを使用することは、倫理的な問題に加え、不公正競争や著作権侵害の申し立てを招く可能性がある」と明示している。
こうした懸念が現実の問題として表面化した事例もある。2024年、著者のLena McDonaldは自身の著書にAI生成と思われる文章が含まれており、その内容が「J. Bree(同ジャンルの著者)のスタイルに合わせて書き直しました」という旨の記述だったことで広く批判を受けた。この件は著作権訴訟には発展しておらず、あくまで業界内での批判・炎上にとどまっているが、LLMによるスタイル模倣が実害を生みうることを示した象徴的な事例として引用されることが多い。
画像生成の分野では、OpenAIはDALL·E 3の仕様として「存命の芸術家のスタイルを求めるリクエストは断るよう設計されている」と明示している。一方、2025年12月に公開されたOpenAIのモデル仕様書には、テキスト生成における著作権素材の模倣を明確に禁止する記述はなかった。今回の変化はポリシーの明文化より先行した実装変更という形になっており、OpenAIの内部方針がどう変化したのかは公式には説明されていない。
他社LLMとの対応の違い
スタイル模倣リクエストへの対応は、各社のLLMで大きく異なる。AIツールの比較・分析を専門とする調査機関No Latencyの比較研究によると:
- Google Gemini:著者スタイルの模倣リクエストに一貫して応じた
- Perplexity AI:一貫して拒否し、別の方向に誘導した(ChatGPTと同様の挙動)
- Anthropic Claude / Microsoft Copilot:リクエストには応じたが、模倣行為への「認識」を示す注記を付けた
※No Latencyは独立系の調査・比較メディアであり、大手調査機関ではない。上記の数値は同社の独自調査に基づくものである点に留意されたい。
ChatGPTとPerplexityが拒否寄りの姿勢を取り、GeminiがよりオープンであることはAIツール選定において実務的な差異となりうる。特に「著名作家のトーンを参考にしたい」というユースケースが業務上不可欠なユーザーにとっては、ツールの乗り換えを検討する材料になる可能性がある。
ユーザーへの実際の影響
ChatGPTを使ったスタイル調整ワークフローは、ライターやコンテンツ制作者の間で広く定着していた。「特定著者風」の文体指定は、プロンプトエンジニアリングの定番手法の一つでもあり、PromptBaseやMediumなど様々なプラットフォームで共有・販売されてきた資産でもある。
今回の制限によって影響を受けるのは、ツールの便利さだけではない。スタイル模倣プロンプトを商品として販売していたクリエイターや、社内のコンテンツガイドラインにこうしたプロンプトを組み込んでいた企業も、ワークフローの見直しを迫られる可能性がある。「完全拒否ではなく誘導」という現在の挙動を踏まえれば、プロンプトを著者名に依存しない形式——文体の特徴を直接記述する方法——へ書き換えることが現実的な対応策となるだろう。
今回の制限が永続的なものか、ポリシー変更に伴う一時的な調整なのかは現時点では不明だ。ただし、著作権リスクへの対応という観点からは、他社も同様の制限を強化していく可能性は十分にある。
詳細はChatGPT starts blocking direct requests to copy an author's styleを参照していただきたい。