7月27日、Crunchbaseが「Schneider Electric's VC Arm: The AI Buildout Is Creating A New Industrial Investment Cycle」と題した記事を公開した。この記事では、Schneider ElectricのVCアーム「SE Ventures」がAIインフラ投資の観点からデータセンター・電力グリッド・ロボティクスの各領域をどう見ているかについて詳しく紹介されている。
AIの本当のボトルネックは「エネルギー」と「建設能力」
「今この分野で最も希少なリソースは、建設する能力そのものだ——建物、不動産、エネルギー、電力、電化機器のすべてがボトルネックになっている」
SE Venturesのグローバルヘッド兼マネージングパートナーであるAmit Chaturvedyはそう語る。Chaturvedyは2022年にCiscoでの企業投資部門を経て同社に参画した。
SE Venturesは10億ドル規模のファンドで、ポートフォリオには8社のユニコーンが含まれる。直近のエグジットは3Dメタルプリント技術を手がけるFabric8Labsで、東京の電子部品メーカー・TDK(TDK Corp.)に買収された。ポートフォリオの**約80%**がSchneider Electricのビジネスユニットと何らかの商業的関係を持つ。
3つの投資テーマ
1. AIインフラ:今とその先
現在のAIブームにより、モデルのトレーニングからインファレンス(推論:学習済みモデルが入力データに対して予測・出力を行うフェーズ)まで、データセンターへのCapEx(設備投資)は急拡大中だ。SE Venturesはこの波をポートフォリオ企業Together AI(オープンソース・プロプライエタリ両対応のAIインフラ)で捉えている。
一方、Chaturvedyは「5〜7年後、CapExサイクルが落ち着いてくると、データセンターの効率化が次の熱いテーマになる」と見通す。ここで言うCapExリフレッシュサイクルとは、データセンターや工場設備といった大型資本財が耐用年数を迎えて更新される周期のことで、一般に5〜15年単位で訪れる。現在の急拡大フェーズが一巡した後、次の更新サイクルで何が選ばれるかを先読みしておくことが、インフラ投資においては重要な判断軸となる。そのための布石として、データセンター効率化に特化したHammerhead AIにも既に投資済みだ。これはいま問題ではなく、上昇サイクルの先を見越した先行投資である。
トークン(AI出力の単位)の経済性にも触れ、「1トークン生成するごとに電気代がかかる。モデルが大きくなり、ユースケースが複雑になるほど、より多くのトークンが必要になる」と説明。短期的な対策としては、データセンターのHVAC(空調・冷却システム)の最適化や、ピーク電力時間帯を避けたインファレンスのスケジューリングが有効だとする。
2. 電力グリッドの強靭化
AIデータセンターによる電力需要の増大は、電気自動車の充電需要とは「100倍から1000倍」のスケール差があるとChaturvedyは指摘する。グリッドがEV充電ですら対応しきれなかった以上、現状の電力インフラではAI需要に到底追いつかない。
再生可能エネルギーの新規開発が進む一方、それらは依然として既存グリッドとの連系が必要で、「グリッドのレジリエンス(回復力)に貢献するものはすべて投資対象」と述べる。また、BESS(Battery Energy Storage System:バッテリーエネルギー貯蔵システム。再エネの出力変動を吸収し、需給バランスを安定させる大型蓄電設備) も注目領域として挙げた。
3. 産業AIとロボティクス
Chaturvedyが最も興奮しているのがここだ。汎用モデルの台頭により、同じロボットハードウェアが複数の異なるタスクをこなせるようになった。LLM以前はエッジでの認知・推論が不可能だったため、これは構造的な変化だと言う。
ポートフォリオ企業のSkild AIを「ロボティクスとAIの交点で最も注目すべき企業のひとつ」として紹介。同じくAxionは保証データをキャプチャして分析し、大企業の設計エンジニアにフィードバックを返すシステムを手がける。
「再工業化」と労働力問題
再工業化(リインダストリアリゼーション)について、Chaturvedyは「米国でも欧州でも、地政学的な状況を踏まえれば選択肢はない」と断言する。
ただし、失われたすべての製造業が戻ってくるとは見ていない。注目するのは別の変化だ。「3〜5年以内に、30年・50年の経験を持つ技術者を新たに育てることはできない。しかし今や、AIをアシスタントとして持てばすべてのブルーカラー労働者がナレッジワーカーになれる」という。
従来「ナレッジワーカー」とはITや白カラー職の概念だったが、AIがその境界を溶かす——というのが彼のシナリオだ。
データセンターはこの変化がすでに起きている最前線で、次の3〜10年で各産業のCapExリフレッシュサイクルに合わせ、ロボティクスや産業オートメーションを前提としたグリーンフィールドプロジェクト(既存設備の改修ではなく、更地や未利用地にゼロから建設する新規開発プロジェクトのこと。既存設備の制約を受けないため、最新技術を最初から設計に組み込める利点がある)が増えると予測する。「今後7〜10年以内に稼働する新工場は、15〜30年前に建てられた工場より基本的な生産性がはるかに高いものになる」。
SE Venturesの投資視点は、純粋なソフトウェア・AIの世界ではなく、電力・製造・物理インフラという「AIの下部構造」を丸ごと捉えようとするものだ。エンジニアの視点で言えば、自分たちが開発するシステムやサービスが、電力供給・冷却設備・送電網のどのレイヤーに依存しているかを意識することの重要性が、この議論からも読み取れる。国内でも大規模データセンターへの投資が相次いでいるが、電力制約や送電インフラの整備が開発・運用のボトルネックになる構造は日本でも同様であり、インフラ側の動向はソフトウェアエンジニアにとっても無縁ではない。
詳細はSchneider Electric's VC Arm: The AI Buildout Is Creating A New Industrial Investment Cycleを参照していただきたい。