7月27日、Don Flucklingerが「All agentic AI data access, orchestration hinges on these two standards」と題した記事を公開した。エージェントAIの基盤となる二大オープン標準「MCP」と「A2A」の整備は驚くほど速いペースで進んだ。しかしForrester Researchが「ポータブルエージェントアイデンティティ」と呼ぶ問題——ベンダーをまたいでエージェントが協調するとき、互いの「身元・権限・制約」をどう確認するか——は依然として未解決のままだ。プロトコルの合意は終わった。だが最も難しい問いはこれから始まる。
MCPとA2Aとは何か
エージェントAIが企業ITの各領域に浸透しつつある今、その基盤となる二つのオープン標準が注目されている。
- **Model Context Protocol(MCP)**:AIエージェントがエンタープライズのデータリポジトリにガバナンスを維持しながらアクセスするための標準。もともとAnthropicが2024年11月に開発・公開し、その後オープンソース化された。エージェントとデータソースの「接続口」を統一する役割を担う。公式仕様はMCP公式サイト(modelcontextprotocol.io)で参照できる。
- **Agent2Agent(A2A)**:複数のAIエージェントが連携・協調して動作するためのオーケストレーション標準。GoogleがSalesforce、SAP、ServiceNow、UKG、Workdayの協力を得て2025年初頭に立ち上げた。エージェント同士の「会話と役割分担」を標準化する。
MCPが2024年11月、A2Aが2025年初頭とリリース時期は数か月しか違わないが、前者はデータアクセス層、後者はエージェント間のオーケストレーション層という役割が明確に分かれている。両標準は現在、Linux Foundationが管理している。業界がこれほど迅速に二つのプロトコルに収束したことは、関係者を驚かせた。
SalesforceのAgentforce担当バイスプレジデント、Gary Lerhaupt氏はこう語っている。
「業界がこれほど早くこの二つのプロトコルに揃ったことには驚いた。『同じ仕事を15種類の方法でやるのをやめて、これで標準化しよう』という合意ができた」
現実はどこまで来ているか
記事が強調するのは、標準が整備されつつある一方で、企業の実態はまだ単機能エージェントの段階にとどまっているという点だ。
グローバルAIコンサルタント会社Emerton DataのパートナーであるMohamed Khalfallah氏は、ユーザーはいまだ「アルファ段階(alpha stage)」——ソフトウェア開発における最初期の試験段階——にすら達していないと指摘する。現場で動いているのは、文書の集約や基本的な計算処理を行う単一タスクのエージェントがほとんどだ。
「すべてのデータベンダーがいわば『平均的なエージェント』を提供することになる。競争力を維持するには、自社固有のプロセスと独自データを加えることが不可欠だ。市場はまだそこに至っていない」(Khalfallah氏)
同社の実務では、MCPは積極活用しているが、A2Aはまだ使っていない。複数エージェントを組み合わせる段階にないためだ。
Salesforceも現実路線を取っている。単一Agentforceエージェント、複数Agentforceエージェント連携、さらに他ベンダー(GoogleやWorkdayなど)のエージェントとの混在環境——それぞれに対応しようとしているが、大規模顧客に多い「複数のSalesforceインスタンスが混在する環境」での統合は、まだ解決途上の課題だ。
最大の盲点:「ポータブルエージェントアイデンティティ」
A2Aに今なお欠けている機能として、記事が特に強調するのがクロスベンダーのエージェント認証、Forrester Researchが「ポータブルエージェントアイデンティティ」と呼ぶ概念だ。
AIを活用したDevOpsプラットフォームを提供するDigital.aiのField CTO、Matthias Zieger氏はこれをオーケストレーション問題以上に重要な課題と位置づける。
たとえば、計画・テスト・セキュリティの各エージェントが複数ベンダーをまたいで協調動作する場面を想定してほしい。各エージェントは自分の役割、許可された操作、そして「本番環境へのデプロイは不可」といった制約を理解していなければならない。
「単一ベンダーや単一ツールの境界を越えると、ポータブルエージェントアイデンティティの問題は解決されていない。あるエージェントにタスクを与え、そのエージェントがA2Aで別のエージェントと通信し、その先のエージェントが本番システムに触れる——そこには非常に大きな信頼が必要になる」(Zieger氏)
ワーキンググループが現在このギャップを埋めるべく作業中だが、標準としての成熟にはまだ時間がかかる。
「ネットスケープの時代」とガバナンスの問い
Zieger氏はエージェントAIの現在地を、1990年代のインターネット普及期における「Netscapeの時代」に喩える。基盤は揃いつつあるが、大企業の多くはまだ単一ユースケースを試している段階だ。
こうした「黎明期に何をガバナンスの軸に据えるか」という問いに対し、EYのGlobal Vice Chair、Julie Linn Teigland氏がガバナンス観点から補強する形で登場する。オーケストレーションには「制御」「説明責任」「ガバナンス」「透明性」という複数の側面があり、それぞれを混同せずに整理することが企業に求められると同氏は指摘する。標準が揃ったからこそ、今度は「誰が何を制御しているか」を問い直すフェーズに入ったということだ。
「透明性は持てる。しかし制御を持てているか?そして社内での優先順位付けを確立できているか?」(Teigland氏)
MCP・A2Aはともに若い標準だが、業界の足並みは揃っている。実世界のユースケースが複雑化するにつれ、両標準が進化していくのは確実だ。
詳細はAll agentic AI data access, orchestration hinges on these two standardsを参照していただきたい。