7月27日、The Next Webが「Thrift-maxxing puts OpenAI and Anthropic IPOs at risk」と題した記事を公開した。中国製AIモデルの圧倒的な低コストを背景に、企業がOpenAIやAnthropicから乗り換え始め、両社のIPO評価額が脅かされている実態を詳しく報じている。
価格差は「ランボルギーニでスーパーへ牛乳を買いに行く」レベル
まず数字から確認しておきたい。約75万語相当のAI出力コストを比較すると、AnthropicのClaude Opus系モデル「Fable」(Anthropicの最上位ラインナップに位置するコーディング・エージェント向けモデル)で50ドル、DeepSeekのV4-Proなら87セント、Z.AIのGLM-5.2(中国のZhipu AI系列が提供するオープンウェイトモデル)で4.40ドル、Moonshot(ムーンショット)のKimi K3でも15ドルだ(Fortune報道)。
この差を受けて、CursorのフィールドCTOであるMike Saeks氏は冒頭のように表現した。彼には具体的な数字もある。Cursorがウェブブラウザをゼロから構築するコストを試算したところ、OpenAIのGPT-5.5で全工程を回すと約1万ドルかかる。CursorのComposerモデルとAnthropicのOpus 4.8に分割すると1,339ドルで済んだ。
「クビにする」のではなく「降格させる」
重要なのは、企業がAmerican AIラボを完全に切り捨てているわけではないという点だ。高価なモデルを「指揮者」に据え、実装は安価な中国モデルに任せるという分業体制が広まっている。
AIエージェントインフラを手がけるTelnyx社の事例がわかりやすい。同社はAnthropicのモデルで1,000体のエージェントを動かしていたが、Anthropicがサブスクリプションプランでのサードパーティ製OS(オペレーティングシステム)経由のAPI利用を利用規約違反と判断して遮断した。これにより、サードパーティOS経由での割安な利用が不可能となり、公式の従量課金APIに切り替えると「1日約10万ドル」になると試算したCEOのDavid Casem氏は、スタックを再構築した。現在は1,400体のエージェントをZ.AIモデルで動かし、AnthropicのFableを「司令塔」として計画立案に使い、オープンウェイト(重みが公開された)モデルが実装を担い、OpenAIのSol(OpenAIが提供するレビュー・評価用途向けモデル)が成果物をレビューする体制だ。
法律系AIスタートアップのHarveyはGLM-5.2を自社でファインチューニングし、タスクが難しいと判断したときだけFable 5を呼び出すボタンを設けた。「私たちは全部と付き合っている」とプレジデントのGabe Pereyra氏は述べた。
市場の数字も動いている
個社の事例にとどまらず、マクロ指標にも変化が出ている。
- AIモデルのマーケットプレイスOpenRouterでは、7月のある週に米国企業が消費したトークンの**57%**を中国モデルが占めた
- その月中旬には、上位5モデルがすべて中国製になった時点があった
- IDCが米国の大企業(従業員1,000人以上)260社の意思決定者に調査したところ、47%が少なくとも1つのユースケースで中国製モデルを使用。5社に1社が「広範な利用」と回答した
CoinbaseのCEO Brian Armstrong氏は6月に、KimiとZ.AIのGLMモデルへの移行でAI支出を半減させたと述べた。DoorDashは「低レベルな作業」をKimiに回し、AirbnbはカスタマーサービスにAlibabaのQwenを使っている。CursorはKimiをベースに自社のコーディングモデル「Composer 2」を構築した。
「血みどろの状態」——ラボ側の防衛戦
ロイヤリティは消えつつある。カスタマーサポートプラットフォームPylonのCEO、Marty Kausas氏はこう述べた。「ゼロロイヤリティしか見えない。今は本当に血みどろの感じだ」。Pylonは今年、あるベンダーから160万ドル相当の無償トークンを受け取り、別のベンダーから6万5,000ドル、さらに別から1万ドルを受け取ったという。
OpenAIはGPT-5.6 Solをトークン効率を大幅に改善したモデルとして訓練したと説明している。Anthropicも同時期に低コストの新モデルをリリースした(モデル名・リリース日は元記事時点で未公表)。
なぜ価格差がこれほど大きいのか
中国モデルが安い理由は「慈善事業」ではない。電気代の安さ、データセンター建設への規制の少なさ、シェア獲得を優先した薄利運営——そして皮肉なことに、輸出規制が技術効率を鍛えた可能性がある。最高のNvidiaチップを入手できない中国ラボは、劣ったハードウェアからより多くを引き出す必要があった。Asia GroupのGeorge Chen氏によれば、「Nvidiaチップ1枚分の予算で、HuaweiなどのローカルチップをHuaweiや他の中国チップメーカーから10枚買える」という。
IPOへの影響とロビイング合戦
OpenAIとAnthropicはともに近くIPOを控えている。Wall Street Journalの報道によれば、今回の価格競争はその評価額を脅かしている。両社は「最高性能モデル」を武器に市場を制してきたが、多くの企業が求めているのは「十分に動く安価なモデル」だった——というのが今回の構造的な問題だ。
こうした状況を受け、中国製オープンウェイトモデルの規制をめぐるロビイング合戦も激化している。スタートアップが禁止に反対する一方、NvidiaなどがオープンモデルをAIリーダーシップに不可欠と訴える書簡に署名した。この論争の実態は価格表をめぐる争いだ。
市場はすでに一度審判を下している。MoonshotがK3を発表した7月16日、Nvidiaは約6,000億ドルの時価総額を失い、一時Appleに世界最大企業の座を明け渡した。
なお、そのKimi K3のモデルウェイトについて、Bloombergは7月27日時点で「同日中に公開ダウンロード可能になる予定」と報じていた。
一方で、リスクを過小評価すべきではないとの見方もある。Gartnerのアナリスト、Igor Marchal氏は、中国製モデルの利用を公言することで評判リスクや調達面での反発を招きかねないと警告する。実際、AirbnbとCursorに対して米議会が調査を開始している。またAmazonのBedrock、MicrosoftのAzure AI Foundry、GoogleのVertex AIは現時点でこれらの中国製オープンウェイトモデルを未サポートだ。
OpenAIのSam Altman CEOは今月CNBCでこう述べた。「今年初めてAI支出が大きな話題になっている。突然、非常に大きな話題になった」。
詳細はThrift-maxxing puts OpenAI and Anthropic IPOs at riskを参照していただきたい。