7月27日、Thomas Lockwoodが「How is the Bun Rewrite in Rust Going?」と題した記事を公開した。BunのRustへの書き直しが「$165,000・11日間で完了した」という主張の実態と、その後も続く開発コストの実情を分析したものだ。
AI活用による大規模コードベースの書き直しが「完了」した——そう報じられたニュースが、実は今も現在進行形で続いているとしたら。Lockwoodの調査はその疑問から始まっている。
「11日間・$165,000で完了」という主張
2026年7月8日、Bunの開発者Jarred Summnerは「Rewriting Bun in Rust」と題したブログ記事を公開した。そこで示された数字は強烈だった——5月3日から14日の11日間、Anthropic APIの呼び出しコスト$165,000(約1日$15,000)でBunのコアをRustに書き直し、mainブランチにマージした、というものだ。
Bunは2025年にAnthropicに買収されており、そのAnthropicのAIツール(Claude Code)で書き直しを行ったという構図は自然ではある。しかしLockwoodはこの主張に疑問を持ち、7月9日からGitHubリポジトリとPRの実態を調べ始めた。
リリースタグが11週間出ていない
調査の核心はシンプルだ。「完了した」はずの書き直しから11週間が経過した現在(7月27日時点)、新しいリリースタグがまだ一つも出ていない。
2026-05-12 15:12:49 -0700 (tag: bun-v1.3.14)
これが最後のリリースだ。Bunがひと月以上リリースを出さなかった前例は2022年末の一度だけで、その際は6週間の空白だった。今回はすでに11週間を超えている。活発な開発が続いているプロジェクトならば、通常はリリースも定期的に出るはずだ。この沈黙は「書き直しが安定して完了した」というイメージと大きく食い違う。
2,475件の未マージPRが積み上がっている
さらに顕著なのがPR数の推移だ。robobunはClaude Codeが自動生成したコードをリポジトリに送り込む際に使われるボットアカウントで、このアカウントによる未マージPRの数は以下のように推移している:
- 7月9日時点:1,277件
- 7月27日時点:2,475件
BuildkiteのCI/CDパイプラインでのマージ処理は1件あたり約40分〜1時間半かかる。Lockwoodの試算では、現在溜まっているPRをすべてマージし切るには、パイプラインをノンストップで86日間回し続ける必要がある。
個別のPRを見ると、レビューがほぼ形骸化しているものや、Anthropicの社員が直接コミットしているケースも確認できる。
「$165,000」はコストの全貌ではない
LockwoodがGitHubのコミット・PR数を時系列で分析したところ、以下の傾向が見えてきた:
- 書き直し開始時にClaude APIの利用量が急増した(これは主張通り)
- その後もAnthropicの社員とrobobunによるRust関連のコミットは増加し続けている
- 当初は社員が週末に休む傾向があったが、その傾向も薄れつつある

Lockwoodの指摘では、$165,000という数字にはBuildkiteのCI/CDコストが含まれておらず、Anthropic社員の稼働時間も含まれていない。あくまで外部に公開されたAPI呼び出しコストのみだ。Lockwoodは「現在も1日$10,000規模のコストが継続していると仮定すれば、トータルコストはすでに$800,000に近づいている可能性がある」と推測するが、これはあくまで著者による試算であり、コミット数の推移から継続的なAI利用が示唆されているという根拠に基づく。
「完了」という言葉の一人歩き
Lockwoodが一貫して指摘するのは、Bunチーム自身が「$165kで完了」と明言したわけではない、という点だ。しかし業界では「AIがオープンソースメンテナーの仕事を代替できる証拠」として一人歩きしている。
AnthropicはBunを傘下に持ち、自社ツールでそのコードベースを書き直している——いわば自社製品を自社で使う「ドッグフーディング」だ。その構造自体は合理的だが、Lockwoodは「大きなバリュエーションを支える主張には慎重であるべき」と釘を刺す。
2026年はAIによるコード生成の成果を示す事例が相次いで発表されたが、その後の続報が途絶えるケースも目立つ。Lockwoodは同様の例としてAnthropicのCコンパイラとwilsonzlinのFastRenderブラウザも挙げており、いずれも発表から数ヶ月コミットが止まったままだという。「完了」の定義が問われている。
詳細はHow is the Bun Rewrite in Rust Going?を参照していただきたい。