7月26日、Inside AIが「AI Drains Aerospace Talent Pool as UK Faces 10,000 Engineer Shortage」と題した記事を公開した。AI企業への人材流出が英国航空宇宙産業の深刻なエンジニア不足に拍車をかけている実態を詳しく伝えている。
AI企業が優秀な工学系卒業生を"吸い上げている"
英国航空宇宙・防衛業界では、年間約1万人の専門エンジニアが不足している。業界団体ADS(ADS Group)が示した数字だ。
問題の構造は二重になっている。一つは高齢化。英国王立航空学会(Royal Aeronautical Society)が今年3月に公表した報告書によれば、英国の有資格航空宇宙エンジニアの50%以上が50歳超であるのに対し、30歳未満は10%に満たない。もう一つが、AI業界への人材流出だ。
コンサルタントのJerrold Lundquist(The Lundquist Group マネージングディレクター)は状況をこう端的に表現する。
「パデュー大学やMITなどトップの航空宇宙工学プログラムを出たエンジニアなら、ボーイングやエアバスではなくAnthropicやOpenAIに行こうと考えるかもしれない」
あくまで一コンサルタントの見立てではあるが、AI企業の高い給与水準とテック業界への参入障壁の低さが、この流れを後押ししているという構造認識は業界内で広く共有されている。航空宇宙分野が過去10年で31%成長したにもかかわらず、人材のパイプラインは追いついていない。
ファーンボロー航空ショーでの危機感
今週開催されたファーンボロー国際航空ショー(Farnborough International Airshow)では、業界の危機感が随所に漂っていた。エンジン組み立て体験やトップガン風の飛行展示といった演出で、Z世代・α世代の獲得を狙う企業が目立った。
17歳のMolly Haydonは「もっと多くの若者に教育を届ける必要がある。この業界にも全員が就ける仕事があると知ってもらうべきだ」と指摘する。航空宇宙エンジニアリングにおける女性比率の低さという問題も依然として未解決のまま残っている。
同じく17歳のHassan Buttのようにミサイル分野に将来の夢を描く若者もいる。しかし業界リーダーたちは、熱意だけではギャップを埋められないと警戒する。ショーでの演出が「入り口」として機能したとしても、その後のキャリアパスが整備されていなければ定着には結びつかない、という声も出ている。
構造的な問題:アプレンティスシップの縮小
人材不足は一朝一夕に生じたものではない。多くの航空宇宙企業がコスト削減の過程でアプレンティスシップ(技能見習い制度)プログラムを縮小し、短期的な新卒採用スキームに切り替えてきた経緯がある。ファーンボローでも各社がリクルート施策を前面に打ち出しているが、長期的なキャリアパスの再構築には程遠い。
ADSのCEO、Kevin Cravenは「過去10年間、業界は毎年成長を続けているにもかかわらず、熟練労働者の不足に悩まされ続けている」と述べ、フライングタクシーやサステナビリティといった分野を若手エンジニアへの訴求ポイントとして挙げた。アプレンティスシップ制度の縮小は短期的なコスト削減には寄与したものの、熟練技術者の再生産サイクルを断ち切るという形で、現在の需給ギャップを構造的に深刻化させた面がある。
経済的なインパクトと政府の動向
航空宇宙・防衛・セキュリティ分野は昨年、英国経済に468億ポンドを貢献している。ウクライナ情勢を背景にした防衛支出の拡大が採用の追い風になるとの期待もある。BAEシステムズが手がける次世代ドローンプロジェクトのような防衛関連の新規開発が、業界のイメージ刷新を担う形だ。
一方でボーイングとエアバスの生産遅延による航空機の受注残は積み上がったままであり、エンジニア不足が続けば納期遅延がさらに悪化するリスクがある。政府レベルでの人材育成投資や、大学・企業間の連携強化が急務とされているが、具体的な政策措置の詳細は現時点では示されていない。
エンジニア需給のアンバランスは航空宇宙に限った話ではないが、高度な資格と長い養成期間が必要な同分野での「即効薬」はない。AIブームが続く限り、優秀な人材がどこへ向かうかという問いへの答えは、当面変わりそうにない。
詳細はAI Drains Aerospace Talent Pool as UK Faces 10,000 Engineer Shortageを参照していただきたい。