7月26日、Los Angeles Timesが「Hollywood's AI hiring is real. Inside the studios, the hiring tells a more careful story」と題した記事を公開した。AIに反対する姿勢を公言しながらも、ハリウッドの主要スタジオが水面下でAI人材の採用を着実に進めている実態について詳しく報じている。
背景:2023年ストライキが残した「建前」と「本音」
この問題を理解するには、2023年の大規模ストライキを押さえておく必要がある。同年、脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)はAIによる雇用破壊への懸念を主要争点のひとつとして掲げ、数ヶ月にわたる歴史的なストライキを敢行した。スタジオ側は交渉の末にAI利用に関する一定の制約を受け入れ、組合との間で定期的な情報開示の場を設けることに合意した。
その合意の下、スタジオは「人間を完全に置き換えるAIはまだ使用していない」と説明し続けている。しかし、求人票という公開情報を精査すると、別の景色が見えてくる。
求人票が暴くスタジオのAI導入実態
「AIを使っているスタジオはたくさんあるが、公の場では決して口にしない」——ComfyUI(画像・映像生成AIのワークフローを視覚的に組み立てられるオープンソースツール。プロの映像制作現場でも活用が広がっている)の共同創業者、Yoland Yanの言葉が状況を端的に表している。
Los Angeles TimesはClaude Code(Anthropicが提供するコーディング特化型AIアシスタント)を使ってスクレイパーを構築し、Disney、Universal、Paramount、Warner Bros.、Sony、Netflix、Amazon MGMの求人票を収集・分析した。6月下旬時点で公開されていた約250件の求人のうち、約30件がAIに関連するものだった。つまり10件に1件以上がAI絡みの採用だ。
公にはAI企業を著作権侵害で訴え、OpenAIへの10億ドルの出資計画を撤回したDisneyでさえ、内部ではPhDレベルの研究者をPixarおよびDisneyの映像向け「コンピュータグラフィクスとAI」研究に採用しようとしている。同社傘下のVFXスタジオIndustrial Light & MagicはAI/機械学習を含む新たな制作ワークフローの開発を担うスーパーバイザーを、音響部門のSkywalker Soundはサウンドトラック生成、声の分離、ボイストランスファー(話者のトーンや音程を別のコンテンツに適用する技術)向けの独自AIモデル構築を担う人材を探していた。加えてDisneyは、AIツールの評価や透かし技術、著作権保護を担う「コンテンツセキュリティ」職を3件掲載している。守りながら攻める、という二面性が求人票に滲み出ている。
Netflix・Amazonの動き
Netflixが掲載した「Manager, Generative Workflows」という職種は1年前には存在しなかったポジションだ。求人票には「業界はGenAIのロードマップで溢れているが、本番環境で実戦テスト済みのものは少ない」と書かれており、米国・カナダ向けに公開予定の映画ラインナップへのAI統合を担うとされている。
Netflixの創造的革新担当シニアディレクター、Girish Balakrishnanは、Runway AI(映像生成・編集に特化した生成AIプラットフォーム。ハリウッドのVFX現場への導入事例が増えている)のフィルムフェスティバルにおいて、映画「Brazil '70」でのサッカーファン群衆のAI生成や、「Glory」での格闘シーン用の確立ショット制作にAIを活用したと明かしている。
Amazonはさらに踏み込んでいる。制作全体でのAIツール導入を主導するプリンシパルAIエグゼクティブの採用に加え、5月には自社のGenAIクリエイターファンドを通じてAIアニメシリーズ3本を発注。制作サービス会社Innovative Dreamへの出資も行っており、スタジオの中では最も積極的なAI採用企業と位置づけられている。
「新しい美容整形」という比喩
ハリウッド内では、AI利用は「新しい美容整形」だという見方が広がっている——誰もがやっていることは知っているが、認める者はほとんどいない。
「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカスは「馬車を選ぶか車を選ぶかと同じだ。AIは映画制作をずっと楽にしてくれる。進歩だ、未来だ」と語っている。マーティン・スコセッシはAI企業を支援し、ベン・アフレックはAI映画技術会社InterPositiveを立ち上げてNetflixに5億ドルで売却した(この金額は元記事が報じる事実であり、映像制作向けAI企業の買収案件としては異例の規模感を示している)。
一方で、俳優組合SAG-AFTRAは6月に合成パフォーマーへの保護条項を含む新たな4年契約を批准し、AIによる無断デジタル複製から個人を守る連邦法案を支持している。スタジオは2023年以降、組合と年2回の秘密会議でAI活動について報告しているが、「人間を完全に置き換えるAIはまだ使用していない」というのがスタジオ側の説明だという。
組合側も現時点では、生成AIがパフォーマンスの生成に使われているという証拠は持っていないとしている。
現状整理
今回の調査で判明した各スタジオの活用領域をまとめると以下の通りだ。なお、Universal・Paramount・Warner Bros.・Sonyについては、本文中で個別の求人内容への言及は少ないが、調査対象には含まれており、AI活用の重心はマーケティング・配給・視聴者分析側にある。
- Disney・Netflix・Amazon:VFX、アニメーション、音響、吹き替えでの反復可能なAIワークフロー構築、カスタム生成AIモデルの内製化
- Universal・Paramount・Warner Bros.・Sony:マーケティング、配給、視聴者分析へのAI活用
なお、スクリプト執筆やAI俳優の生成を目的とした求人は1件も確認されなかった。これは2023年ストライキで組合側が強く警戒していた領域であり、少なくとも「表向きの採用活動」においては、スタジオ側が慎重な姿勢を保っていることを示している。
AIフィルムスタジオのCEO、Bryn Mooserは「社会的、倫理的、法的に採用が難しい局面が続いているが、これまでで最も多くの導入事例を目にしている」と述べている。
詳細はHollywood's AI hiring is real. Inside the studios, the hiring tells a more careful storyを参照していただきたい。