7月24日、SiliconAngleが「Biotech companies are being reshaped by AI」と題した記事を公開した。この記事では、AIがバイオテック業界の周辺ツールから創薬の中核へと移行しつつある現状について詳しく紹介されている。
創薬の「本当のボトルネック」はどこにあるか
新薬の臨床試験における失敗率は**90〜95%**にのぼる。この数字こそが、バイオテック業界でAI活用が急加速している背景にある。
「ほとんどの薬が臨床で失敗するのは、どの患者が恩恵を受けやすいかわからないからだ」と語るのは、Noetik Inc.の共同創業者兼CEOであるRon Alfa氏だ。「モデルを患者の生物学的特性に合わせて訓練し、成功確率を上げることが、新薬を患者に届ける上での真のボトルネックだ」
この発言は、業界全体のAI活用の軸足がどこにあるかを端的に示している。早期の分子設計や標的探索の加速だけでなく、臨床成功確率を上げることそのものが主戦場になりつつある。
Alfa氏をはじめとする複数の業界関係者は、NYSE(ニューヨーク証券取引所)で開催された「theCUBE + NYSE Wired: AI in Bio」イベントでtheCUBEのGemma Allen氏のインタビューに応じた。以下に主要な取り組みを紹介する。
最も注目される取り組み:腫瘍のデジタルツインと並列薬剤設計
Noetik:腫瘍のデジタルツインで患者選別を変える
Noetikは、数千件の実患者腫瘍サンプルでAIモデルを訓練し、特定の治療に反応しやすい患者を予測するデジタルツイン(患者の腫瘍を仮想空間上に再現したモデル)を構築している。同社はすでに製薬大手GlaxoSmithKlineとの非独占的パートナーシップを締結し、GSKのパイプライン全体への技術展開を進めている。
早期創薬の加速ではなく、失敗率の高い臨床段階を狙い打ちにするという戦略が特徴的だ。
Manifold Biotechnologies:一匹の動物で数十万候補を同時検証
Manifold Biotechnologiesは、従来の「一度に一つを検証する」薬剤探索の流れを根本から逆転させるアプローチをとっている。AIが設計した数十万の薬剤候補を、一匹の動物の体内で同時に計測するハイスループット手法だ。
このアプローチにより、より良いモデル訓練に必要な豊富な生物学的データが得られるほか、血液脳関門(脳への物質移行を制限するバリア)の通過を含む組織ターゲティング精度の向上にも活用されている。
その他の主要な取り組み
ExpressionEditsは、COVID研究中に、治療用タンパク質の生産に使われるDNA命令が50年前のウイルス配列に似たままであり、細胞がそれを抑制してしまうことを発見。AIでこの配列をヒト遺伝子に近い形に再設計することで、タンパク質の発現量を大幅に向上させ、遺伝子治療やワクチン開発への応用を進めている。
Sen-Jam Pharmaceuticalは、加齢に伴う慢性炎症(「inflammaging」)を標的とするAI創薬プラットフォーム「Galaxy」を開発。同社発表によれば、試験データにおいて臨床成功確率を**200〜300%**向上させるとしており、すでに5つの化合物をフェーズ2まで進めている。
Fauna Bioは、冬眠動物が持つ「心臓ダメージの自己修復」「筋肉の再生」「神経変性に似た病態の回復」といった生物学的特性に着目。ナレッジグラフとグラフニューラルネットワークを使って、これらのデータとヒト患者データを統合し、心不全治療の候補を来年の臨床試験へ進める予定だ。
Insitroは、ヒト細胞で疾患をモデル化した大量の独自データをもとに、特定遺伝子への介入効果を予測する因果AIモデルを構築。ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難治性疾患への応用を進めている。
Concerto Biosciences(MITスピンアウト)は、皮膚マイクロバイオームの改善を標的とした、週1回塗布の多菌種外用療法で湿疹の治療と予防を目指している。単一菌種ではなく複数菌種を組み合わせた外用製剤という独自のアプローチをとっており、フェーズ1bをすでに完了。安全性データを積み上げながら次フェーズへの移行を進めている段階だ。
投資家の視点:「ツールではなく、薬を作れるか」
RA Capital ManagementのベンチャーパートナーであるJacob Oppenheim氏は、投資判断の軸を明確に語っている。「バイオテックで唯一実証されているビジネスモデルは、成功する薬を作ることだ。AIやプラットフォーム技術は、それが競合より優れた治療薬をより速く生み出せると示せなければならない」
AIの近期的な価値は、仮説空間の拡張、実験サイクルの加速、ヒト遺伝学データの統合の3点にあると同氏は指摘する。
業界インフラとしてのAI:Alloy Therapeuticsの立ち位置
上記の各社が自社パイプラインを軸に創薬を進める一方で、異なる役割を担うのがAlloy Therapeuticsだ。同社は自社で薬剤候補を開発・保有するのではなく、他社の創薬プロセス全工程を支援するインフラ企業として機能しており、業界の「ハイパースケーラー」を自認している。サービス料・マイルストーン・ロイヤルティを組み合わせた収益モデルにより、パートナー企業の成功と自社の利害を一致させる構造を持つ。個別の疾患領域ではなく「創薬という行為そのもの」を事業対象とする点で、他社とは一線を画した存在だ。
詳細はBiotech companies are being reshaped by AIを参照していただきたい。