7月26日、Bob O'Donnellが「AMD's Helios rack is finally shipping, and it's coming for Nvidia's AI dominance」と題した記事を公開した。AMDが初の完全統合AIインフララック「Helios」の出荷を開始し、NvidiaのAIインフラ市場における優位性に本格的に挑む姿勢を打ち出したことが報告されている。イベントにはAnthropicのエンジニアが登壇し、ClaudeをAMDチップ向けのコードチューニングに1週間自律動作させたところ、月曜日に戻った時点で動作するコードと継続的に改善するパフォーマンスカーブが得られたという実例を披露した。ソフトウェア・ハードウェア両面での動きが揃い、AMDは「発表するだけの挑戦者」から「製品を届けられる競合」へと転換しつつある。
Heliosとは何か
AMDが先日サンフランシスコで開催した「Advancing AI」イベントの目玉は、Heliosラックの正式出荷開始だ。Heliosは、AMDが初めて手がける完全統合型のAIインフララックソリューションで、以下の3つのAMD製コンポーネントで構成される。
- 最新世代Epyc CPU
- Instinct MI455X データセンターGPU
- Pensando ネットワーキングチップ
Heliosは昨年のイベントでプレビューされていたが、「実際に出荷できる製品」と「発表段階の製品」では市場における意味合いが大きく異なる。Nvidiaはすでにラック・データセンタースケールのソリューションを業界標準として定着させており、AMDにとってHeliosの出荷は「真の競合製品を持てるかどうか」の分水嶺だった。今四半期中に出荷が始まることで、AMDは初めてNvidiaに対する現実的な代替選択肢を提示できる立場に立った。
イベントにはAnthropic、OpenAI、Meta、AT&Tといった顧客・パートナーが登壇し、単なる発表イベントにとどまらない実質的なエコシステムの広がりを示した。CEO Lisa Suは、Heliosを最初期の顧客と共同設計したプロセスを強調している。
NvidiaへのベンチマークとHBM4の優位性
AMDはHeliosに関して、いくつかの攻撃的な性能主張を打ち出している。
- 最新のEpyc CPUはNvidiaの新型Vera CPUに対してコアあたり20%の性能向上を主張
- NvidiaのRACSシステムと比較してより大容量のHBM4メモリと高いメモリ帯域幅を搭載
HBM4(High Bandwidth Memory 4)はGPUダイに積層される超高速メモリ規格で、AI推論・学習における大規模モデルの処理において帯域幅の広さが性能に直結する。AMDがこの点を強調するのは、大規模言語モデルのワークロードにおけるメモリボトルネックがNvidiaシステムでも課題となっているためだ。
ただし、これらはAMD自身によるベンチマーク数値であり、独立した第三者検証はまだこれからだ。実環境での性能がどの程度かは、実際の導入事例が積み上がるまで慎重に見る必要がある。
低レイテンシ推論を求める用途向けには、Cerebrasとのパートナーシップも発表された。CerebrasのラックとHeliosラックを並列配置して高負荷ワークロードに対応する構成が想定されている。
「CUDAの堀」を崩しにいくROCm.ai
ハードウェア以上に長期的な観点で重要なのが、ソフトウェアスタックの刷新だ。AMDはROCm.aiと呼ばれる新バージョンのソフトウェアスタックを発表した。AI支援プログラミングを活用し、AMD向けの最適化コードの開発を容易にすることを狙いとしており、NvidiaのCUDAで書かれたコードをROCmへ移植する機能も含まれる。
ROCm(Radeon Open Compute)はAMDが2016年頃から開発を続けるオープンソースのGPUコンピューティングプラットフォームで、NvidiaのCUDAに対するAMD側の回答として位置づけられてきた。しかし長らく「CUDAに比べてエコシステムが薄い」という評価が付きまとっており、開発者・研究者がAMD製GPUを選ばない主因ともなってきた。
NvidiaはCUDAエコシステムをおよそ20年かけて構築しており、この「CUDAの堀」は競合にとって最大の参入障壁とされてきた。一夜にして状況が変わるわけではないが、ROCm.aiの存在はその堀を以前より小さく見せる。
ROCm.aiの機能の中でも特筆すべきはHyperloomだ。AIアプリケーションをROCm向けに最適化する専用機能で、実際の活用事例としてAnthropicが登壇し次のエピソードを紹介した。あるエンジニアがClaude(AnthropicのAIアシスタント)を1週間末に自律動作させてAMD Instinct MI355Xチップ向けのチューニングを任せたところ、月曜日に戻った時点で動作するコードと継続的に改善するパフォーマンスカーブを得られたという。AIがAI向けハードウェアの最適化を担うという構図は、ソフトウェア開発の生産性という観点でも注目に値する。
PC・ロボティクスへの展開
データセンター以外でも、AMDはいくつかの動きを見せた。ただし今回のイベントの主軸はあくまでHeliosとROCm.aiであり、以下の発表は補足的な位置づけだ。
PCサイドでは、コードネーム「Gorgon Halo」と呼ばれるAI特化型デスクサイドコンピューティングデバイスを発表。Zen 5 CPUとRDNA 3.5 GPUを組み合わせたRyzen AI Max APUの強化版を搭載し、最大192GBのユニファイドメモリを提供する。価格は未定だが、現在のDRAMコストを考えると高価格帯になる見込みだ。CiscoとのパートナーシップによりAIエージェント管理・可観測性・トークノミクスツールをこのデバイスに統合する計画も発表されたが、詳細はまだ明らかにされていない。
ロボティクスサイドでは、2022年のXilinx買収で取得したFPGA技術を核としたKria AI SOM(システムオンモジュール)とKria AI Robotics Developer Platformを発表。Ryzen AI Embedded X100シリーズSoCをベースに、オープンソースのKria AIロボティクスプラットフォームソフトウェアをセットにした開発者向けツールキットだ。FPGA(Field-Programmable Gate Array)は回路構成を後から書き換えられる半導体デバイスで、ロボティクスにおける新しいAIアルゴリズムへの適応やセンサーフュージョン(カメラ・各種センサーの統合処理)に不可欠な柔軟性を持つ。AMDはXilinx買収以降、この領域で数年来の実績を積み上げている。
まとめ
NvidiaがAIインフラ市場を支配し続ける構図は当面変わらないだろう。しかしHeliosの出荷開始・ROCm.aiの発表・Anthropicらによるエコシステム参加が重なったことで、AMDは「有力な代替候補」としての信頼性を大きく引き上げた。ベンチマーク数値の真偽は独立検証を待つ必要があるものの、ハードウェア・ソフトウェア両面での動きは、AIインフラ調達を検討する組織にとって選択肢が実質的に増えたことを意味する。
詳細はAMD's Helios rack is finally shipping, and it's coming for Nvidia's AI dominanceを参照していただきたい。