7月24日、The Decoderが「ChatGPT will give you worse health advice if you don't pay」と題した記事を公開した。OpenAIの健康アドバイス機能「Health in ChatGPT」において、無料ユーザーと有料ユーザーに異なるモデルが割り当てられており、医療ベンチマーク上で「回答の網羅性」に35ポイント近い差が生じていることが明らかになった。健康という領域で、サブスクリプションの有無がアドバイスの質を左右するという二層構造の実態を伝えている。
無料ユーザーはGPT-5.5 Instant、有料ユーザーはGPT-5.6 Sol
OpenAIは「Health in ChatGPT」を米国の18歳以上のユーザーに向けて正式展開した。Apple Health、医療記録、ウェルネスアプリと連携し、検査結果の確認、医師との診察準備、睡眠・活動データの分析などに使える機能だ。接続された健康データはモデルの学習や広告には使用しないとOpenAIは説明している。
問題の核心はモデルの使い分けにある。無料ユーザーにはGPT-5.5 Instantが、有料ユーザーにはGPT-5.6 Solが割り当てられる。いずれも2026年時点でのOpenAI内部モデルであり、一般にはほとんど知られていない名称だが、元記事によればGPT-5.5 Instantは応答速度重視の軽量モデル、GPT-5.6 Solは同世代のフラッグシップモデルという位置づけだ。この2つのモデルには、健康ベンチマーク上で明確な性能差がある。
HealthBench Professionalで35ポイント差——どう測られたか
OpenAIの医療ベンチマーク「HealthBench Professional」での比較結果は以下の通りだ。HealthBench Professionalは、OpenAIが医師260名以上と共同設計した評価フレームワークで、「回答の網羅性」「健康上の意思決定への有用性」「安全性への配慮」など複数軸で医療応答の品質を測る。単純な正誤問題ではなく、実際の患者が直面しうる質問に対する回答の質を多面的に評価するのが特徴だ。

GPT-5.6 Solは医師の回答を上回り、旧モデルに対しても全カテゴリで優位に立つ。特に差が大きいのは「回答の網羅性」(88.0% vs 53.2%)と「健康上の意思決定への有用性」(83.0% vs 50.8%)の2項目だ。
ただし、このベンチマークは知識を測る人工的な環境で設計されており、実際の診察では医師が患者を直接診察し、非言語的なサインを読み取り、長年の経験から総合的に判断するという側面は測定できない。OpenAI自身も発表の中で「ChatGPTは誤りを犯す可能性があり、医療アドバイスの代替にはなれない」と繰り返し述べており、ヘルス機能の開発に医師260名以上が関与したとしている。
なお、「どちらのモデルも医師の回答を上回る」という点をOpenAIはベンチマーク発表で強調しているが、無料ユーザー向けモデルの性能差を倫理的にどう正当化するかについての公式見解は、元記事執筆時点では明示されていない。
毎週3億人が健康質問、ただし欧州展開は未定
OpenAIによると、現在週あたり3億人以上がChatGPTに健康に関する質問をしているという(1月時点は2億3000万人)。一方、欧州経済領域(EEA)、スイス、英国での展開時期は明らかにされていない。EU AI Actでの高リスク分類の可能性や厳格なEUデータプライバシー規制が背景にあるとみられる。
また、OpenAIの初期テストでは、参加者の70%以上が専用のHealthセクションではなく通常の会話の中で健康質問をしていたことが判明した。セクションの切り替えが煩雑だったためで、現在はどの会話でもHealth機能を利用できるよう改善されている。
「AIはDr. Googleよりマシかもしれないが、医師の代替にはならない」
健康AI全体の信頼性については、懸念も根強い。放射線診断ベンチマーク「RadLE 2.0」は、放射線画像に対するAIの所見生成能力を評価するベンチマークで、2024年に初版、2025年に改訂版が公開された。最新版の結果では、テストした16モデルすべてが人間の放射線科医に及ばなかった。特に問題視されているのは、誤った所見を高い確信度で提示する「過信」だ。人間の放射線科医が不確実性を適切に認識するのに対し、AIチャットボットは誤りを認めずに断定的に答える傾向があるとされる。
一方でポジティブな報告もある。MIRAは電子カルテシステムに統合された臨床支援AIエージェントで、医師の診察記録や患者データをもとに診断補助を行うシステムだ。Googleが開発した**AMIE(Articulate Medical Intelligence Explorer)は、診断的な医療対話を行うよう設計された研究用AIシステムで、模擬診察において患者との対話能力を評価されている。これらは模擬診察においてプライマリケア医と同等のパフォーマンス**を示した。AIが医療専門家が見落としたパターンを発見した事例も報告されている。ある研究者は、こうしたAIエージェントを航空機のオートパイロットに例えて「ルーティン業務の代替・支援はできるが、最終的な責任は常に医師にある」と述べている。
有料・無料の格差は「健康」という文脈でどう受け止めるべきか
今回の二層構造は、コスト効率とサービス品質のトレードオフという意味では既存のSaaSモデルと変わらない。しかし対象が健康相談という領域である点が、純粋なビジネス判断として切り捨てにくい問題を生む。無料ユーザーの多くは医療アクセスが限られた層と重なる可能性があり、そうした層が性能の低いモデルで健康判断を行うことになるという非対称性は、サービス設計上の問いとして残り続けるだろう。
※編集部の考察
詳細はChatGPT will give you worse health advice if you don't payを参照していただきたい。