7月23日、SiliconAngleが「AI chip startup Etched more than doubles valuation to $10.3B in new $300M round」と題した記事を公開した。この記事では、AIインファレンス特化チップを開発するEtched社が3億ドルの資金調達を完了し、評価額が103億ドルに達したことが詳しく報じられている。
わずか半年で評価額が2倍超に
AIチップスタートアップのEtched Inc.が、シリーズCラウンドで3億ドルの調達を完了した。ラウンドをリードしたのはSequoiaで、AIチップ向けメモリの世界最大手であるSK Hynix、Andreessen Horowitz、Jane Street、Diffusionも参加した。
評価額は103億ドルとなり、2024年12月時点の水準から2倍以上に膨らんだ。
NvidiaのGPUとの差別化戦略:「インファレンス専用」という割り切り
NvidiaのGPUはAIの学習(トレーニング)と推論(インファレンス)の両方のワークロードに対応する汎用設計だ。Etchedはインファレンスに完全特化することで、より効率的な設計を実現したと主張する。
インファレンスの処理フローは大きく2段階に分かれる。
- プリフィル(Prefill)フェーズ:入力プロンプトの意味を解析する段階。行列乗算(matrix multiplication)という演算集約的な計算が中心となる。
- デコード(Decode)フェーズ:AIモデルが1トークンずつレスポンスを生成する段階。
Etchedはそれぞれの段階に対して独自技術を投入している。
LVI:クロック周波数の熱的ボトルネックを解消
チップが1秒間に実行できる行列乗算の回数は、クロック周波数に依存する。従来のGPUは発熱を抑えるためにクロック周波数を制限せざるを得ない。
同社によると、EtchedはこれをLVI(Low Voltage Infrastructure)と呼ぶ独自機構で解決するとしている。プロセッサの電圧を最小化することで動作温度を下げ、GPUより高いクロック周波数での動作を可能にするというアプローチだ。なお、LVIはEtched独自の技術名称であり、一般的な業界標準用語ではない点に留意されたい。
Cluster Scale Memory:ラック内のアクセラレータでメモリを共有
デコードフェーズの高速化には、同社がCluster Scale Memoryと呼ぶ仕組みを採用する。同社によると、ラック内のすべてのアクセラレータが同一のメモリを共有できる構成で、同じデータを各アクセラレータに個別にコピーする必要がなくなるという。これによりプロンプト処理のワークフロー全体の効率が向上する。
アプライアンス形式での出荷、今夏開始予定
Etchedはチップ単体ではなく、専用の冷却コンポーネントとインターコネクトを備えたアプライアンス(完結型ハードウェア)として製品を提供する計画だ。
初回ラックの出荷は今夏を予定しており、カリフォルニア州サンノゼ本社近くの約7,400平方メートル(8万平方フィート)の施設にSMT(Surface Mount Technology:表面実装技術)の生産ラインを構築中だ。この施設はプロトタイピングラボも兼ねる。
同社共同創業者兼CEOのGavin Ubertiは今回の調達についてこう述べている。
「フロンティアAIを持続可能かつ経済的に提供するために必要なインフラは、既存ハードウェアの段階的な改良からは生まれない。このラウンドは、課題の解決にはゼロから再構築する意志を持つ新規参入者が必要だという、業界全体での確信を反映している」
AI半導体への投資加速という文脈
AI推論コストの削減は、LLMを実用サービスとして展開する上での最重要課題の一つになっている。NvidiaがGPU市場を独占する中、インファレンス特化のASIC(特定用途向け集積回路)で差別化を図るプレイヤーへの投資が増加傾向にある。同分野では推論専用チップを手がけるGroqやCerebrasといったスタートアップも存在感を高めており、Etchedへの今回の投資もこうした競争の激化を背景に位置づけられる。
詳細はAI chip startup Etched more than doubles valuation to $10.3B in new $300M roundを参照していただきたい。