7月24日、Janakiram MSVが「Google Expands Gemini With Cheaper Models And A Wider Agent Push」と題した記事を公開した。注目すべきは2点だ。従来は月額100〜200ドルのAI Ultraプラン限定だったパーソナルAIエージェント「Spark」が月額19.99ドル(※為替レートにより円換算は変動するが、2026年7月時点では概ね2,800〜3,200円前後)のAI Proプランに開放されたこと、そしてLite版モデルがベンチマーク上で前世代のフルサイズモデルを超えたこと——この2つが、今回の発表の核心を成している。
3モデル同時投入——Flashファミリーの再編
7月21日、Googleは3つの新Geminiモデルを一気に公開した。
Gemini 3.6 Flashは、前世代の3.5 Flashを置き換えるコーディング・エージェント向けの主力モデルだ。Artificial Analysis Indexでの計測によると、出力トークン数が前世代比17%削減された。推論ステップとツール呼び出し数を減らすことで多段階ワークフローを効率化し、価格面でも出力トークンが100万トークンあたり9ドルから7.50ドルへ引き下げられた(入力価格は据え置き)。
Gemini 3.5 Flash-Liteは、3.5系で最速を謳うモデルで、スループット350出力トークン/秒を実現する。低レイテンシが求められるエージェント検索、分類、ドキュメント処理向けの位置づけだ。ベンチマークではSWE-Bench ProとOSWorld-Verifiedで旧世代のGemini 3 Flash(フルサイズ)を上回ったとGoogleは発表している。Lite版が前世代のメインモデルを超えるという結果は、高ボリュームAIの「適正コスト」への期待値を一段と引き下げる。ただし、入力価格は100万トークンあたり0.30ドル、出力は2.50ドルと、Gemini 3.1 Flash-Liteからは静かに値上げされている点には注意が必要だ。
セキュリティ特化モデル「Flash Cyber」——政府・信頼パートナー限定
最も毛色が異なるのがGemini 3.5 Flash Cyberだ。3.5 Flash上でファインチューニングされ、ソフトウェア脆弱性の発見・検証・修正に特化している。
このモデルはGoogleのコードセキュリティエージェントCodeMenderの内部で動作する。CodeMenderは複数のFlash Cyberインスタンスを並列実行してコードベースを多角的に分析し、結果を1本のレポートに統合する仕組みだ。検証プロセスでは、顧客が管理する隔離サンドボックス内でエクスプロイトコードを生成・実行することで脆弱性を確認する。ソースコードはモデルの学習に使用されないとGoogleは明言している。
デュアルユース(軍民両用)の懸念から、Flash Cyberは現在、政府機関と信頼済みパートナーのみに限定した限定アクセスパイロットとして提供される。CodeMender自体はGemini Enterprise Agent Platformを通じてプレビュー公開されているが、こちらは一般公開モデルで動作し、Flash Cyberは含まれない。
CNBCの報道によると、Flash CyberはAnthropicが脆弱性発見能力で注目を集めた「Mythosモデル」への最も直接的な対抗手段だという。エンタープライズ向けに設計されながら、当のエンタープライズが評価できないパイロット設計は矛盾を含んでおり、記事でも「その優位性はGoogleの自社評価に依拠している」と指摘されている。
Sparkが月額19.99ドルへ——エージェントの「大衆化」
7月23日、GoogleはパーソナルAIエージェントGemini SparkをAI Proサブスクライバー(月額19.99ドル)に展開した。従来はAI Ultraプラン(月額100〜200ドル)の限定機能だった。
SparkはGemini 3.5 FlashとAntigravityハーネス上で動作する常駐型エージェントだ(Antigravityはタスク実行の調整や複数アプリをまたいだ操作制御を担うGoogleの内部エージェントフレームワークを指す)。ユーザーが「出張を手配して」と指示すれば、Gmail・Docs・Sheets・Slidesをまたいでカレンダー調整、メールのトリアージ、ドキュメント編集を自律実行する。繰り返し利用できる指示テンプレート「Skills」と自動トリガー「Schedules」を備え、6月のアップデートでGoogle Tasks・Google KeepおよびMCP(Model Context Protocol)サーバー経由のサードパーティアプリとも連携するようになった。MCPはAnthropicが提案しAIエージェントと外部ツールを標準化された手順で接続するオープンプロトコルで、現在は主要AIプラットフォームで広く採用されている。
今回の更新では並列ソース取得により50%以上の高速化と、共有Workspaceファイルの編集にも対応した。現時点でEEA(欧州経済領域)、ナイジェリア、スイス、英国は提供対象外だ。
見過ごせない制約事項
記事はこれらの展開と同時に、複数の実質的な制約を指摘している。
- Gemini 3.5 Proの遅延: Google I/Oで発表済みのフラッグシップモデルがパートナーテスト段階にとどまり、推論深度が重要なワークロードでの競争力が弱まっている
- SparkはWorkspaceアカウント非対応: 個人のGoogleアカウントでのみ動作し、企業の管理環境では使えない。「シャドーエージェント」(IT部門の管理外での利用)が近い将来の企業統制上の課題になると記事は指摘する
- Sparkの確認なし一括操作: GoogleのドキュメントはSparkがGoogle Tasksで確認なしに一括操作を実行できることを明記しており、エージェントへの委任には監視が依然として必要だ
エンタープライズが問うべき2つの問い
記事はエンタープライズ購買担当者に2点を問いかけて締めている。
- ワークロード配置: どのパイプラインを安価なFlash-Liteに乗せ、どれが3.6 Flashやフロンティアモデルの価格差を正当化するか
- エージェントガバナンス: 従業員が個人アカウントでSparkを使い始める前に、メール・カレンダー・ドキュメントにアクセスするエージェントの権限範囲をIT部門が定義しているか
Gemini 3.5 ProがGAになりSparkがWorkspaceに対応する段階になれば、Googleは効率モデル・セキュリティエージェント・パーソナルエージェントをフルカバーするスタックを揃えることになる。Artificial Analysisのデータでは、GeminiのFlashファミリーはAnthropicやOpenAI、中国の競合モデルをコスト面で既に下回っているとされる——ただしこれはあくまで同データプロバイダーによる計測値であり、ワークロード特性によって評価は変わりうる点は留意が必要だ。
詳細はGoogle Expands Gemini With Cheaper Models And A Wider Agent Pushを参照していただきたい。