7月25日、The Next Webが「Nvidia, Microsoft, Meta back open AI. OpenAI didn't.」と題した記事を公開した。この記事では、NvidiaやMicrosoft、Metaなど25社・団体がオープンウェイトAIの規制に反対する公開書簡に署名した一方、OpenAI・Anthropic・Googleは署名しなかったという業界の対立構図について詳しく紹介されている。
「オープンウェイトとアメリカのAIリーダーシップ」書簡
7月24日、Nvidia、Microsoft、Meta、Mistral、Palantir、IBM、Andreessen Horowitz、Hugging Face、Mozilla、Linux Foundationを含む25社・団体が、"Open Weights and American AI Leadership"(オープンウェイトとアメリカのAIリーダーシップ)と題した公開書簡を連名で発表した。書簡はワシントンに対し、オープンウェイトAIへの規制強化を行わないよう求めている。翌7月25日にThe Next Webがこれを報じた。
「オープンウェイト」とは、モデルのパラメータ(重み)を公開し、誰でもダウンロード・改変・再利用できる形式のAIモデルを指す。MetaのLlamaシリーズが代表例だ。クローズドなAPIとしてのみ提供されるGPT-4やClaudeとは対照的な開発・配布モデルであり、近年は研究機関・スタートアップ・大企業を問わず採用が広がっている。
Nvidia CEOのジェンセン・フアン氏はXアカウント開設以来初めての投稿としてこの書簡を紹介し、1,100万回以上の表示を記録した。「世界にはフロンティアのクローズドモデルとオープンモデルの両方が必要だ」と同氏は述べた。
書簡は1980年代のオープンソースソフトウェアの歴史にまで遡り、現在のインターネットの大半を支えているオープンソースの延長線上にオープンウェイトAIを位置づけている。アメリカのAIにおける優位性は「単一のフロンティアモデルではなく、強固でオープンなエコシステムを築けるかどうかで判断される」と主張している。
署名しなかったのは誰か——そこに本質がある
署名欄の「空白」が、この書簡の最大の読みどころだ。OpenAI、Anthropic、Googleは署名していない。この3社はいずれもクローズドモデルの主要プレイヤーである。
背景にあるのは中国勢との競争だ。中国のMoonshot AIが開発したKimi K3は、現時点で世界最高性能のオープンウェイトモデルとされている。ワシントンが中国製オープンモデルを規制すれば、クローズドモデルを持つOpenAIらが相対的に利益を得る構図がある。元記事はこの点を記者の見立てとして示しており、各社が公式に署名拒否の理由を表明したわけではない点は留意が必要だ。
書簡が発表された前日には、約200のスタートアップ企業も同様の主張をホワイトハウスに対して行っていた。
一方、署名しなかった各社の反応は穏やかだった。OpenAIのサム・アルトマン氏は支持表明を「見られて嬉しい」と述べ、Microsoftのサティア・ナデラ氏も同日に書簡の趣旨を支持した。SpaceXは署名していないが、イーロン・マスク氏はフアン氏の投稿を引用し「全面的に支持する。ジェンセンは正しい」とコメントした。
安全性の論点を逆手に取る
書簡の最も鋭い点は、これまでクローズドAI陣営が使ってきた「安全性」の論拠を、そのまま反転させている点だ。
クローズドモデルだけに依存することは「本質的に安全ではない」と書簡は主張する。その理由として、「外部から検知できない形で侵害・悪用・障害が起きうる」点、そして少数のクローズドモデルへの集中が「単一障害点(single points of failure)」を生むことを挙げている。
「オープン性こそがAI安全への最重要な経路の一つかもしれない」——これはOpenAIとAnthropicが中国製オープンモデルの規制根拠としてきた安全保障論への、真っ向からの反論だ。
中国問題と各社の利害
タイミングは計算されている。書簡の発表直前、ホワイトハウスのマイケル・クラッツィオス氏はMoonshotがAnthropicのモデルを「蒸留」してKimi K3を開発したと非難。財務長官のスコット・ベッセント氏は蒸留行為を「窃取」に例え、制裁も示唆していた。
「蒸留(distillation)」とは、大規模モデルの出力を使って別のモデルを訓練する手法だ。業界では広く使われる技術だが、ライセンス違反を伴う形での利用が問題視されている。
書簡は蒸留を「広く使われる技術」と認めつつも、あらゆる悪用を容認するわけではないと述べている。「正当なモデル開発技術と不正流用を混同すべきでない」として、違法な抽出には「広範な規制ではなく、的を絞ったルール」が適切だと主張している。
署名企業それぞれの立場
署名企業を個別に見ると、各社が書簡に加わった文脈はそれぞれ異なる。
NvidiaはオープンモデルもクローズドモデルもGPUを売る立場であり、規制によってモデル開発の総量が減ることを最も避けたい企業の一つだ。フアン氏の「初投稿」という形での参加は、その危機感の強さを示している。
MetaはLlamaシリーズを通じてオープンウェイトAIの普及を事業の中核に据えており、規制強化は直接的な打撃になりうる。MistralやHugging Faceも同様に、オープンAIの普及そのものが事業基盤になる企業だ。
Microsoftの参加はやや複雑な位置づけにある。同社はOpenAIへの主要出資者でありながら書簡に署名しており、クローズドとオープンの両陣営に足場を持つ姿勢を改めて示した形だ。
IBMやLinux Foundation、Mozillaといった企業・団体はオープンソース文化との親和性から署名しており、書簡の「1980年代のオープンソースの歴史」という歴史的文脈の提示にも、こうした顔ぶれが説得力を与えている。
そして皮肉なことに、書簡が守ろうとしているオープンウェイトの分野では、アメリカはすでに中国に後れを取っている。
「フロンティアを多元的に保ち、競争を萎縮させ、イノベーションを海外に追いやる時期尚早な規制を避けよ」——署名企業の訴えは明確だ。しかし、現在進行中のレースでアメリカが逆転できるかという問いには、書簡は答えを持っていない。
詳細はNvidia, Microsoft, Meta back open AI. OpenAI didn't.を参照していただきたい。