7月23日、Digit.inが「OpenAI Presence explained: OpenAI's new platform for AI customer support agents」と題した記事を公開した。OpenAIがエンタープライズ向けカスタマーサポートAIエージェントプラットフォーム「Presence」を発表した——それ自体はよくあるニュースに見えるが、このプラットフォームには異色の仕組みが組み込まれている。AIエージェントの本番エラーを元に、別のAI(Codex)がそのエージェントのコードを自動改善し続けるという「AIによるAIの自律的改善ループ」だ。OpenAI自身がこれを自社サポートに適用し、わずか10日でエスカレーション率を15ポイント削減したとしている。
最も注目すべき点:Codexによる自律的な自己改善ループ
Presenceの核心は、エージェント単体ではなく、その継続的改善の仕組みにある。
本番運用中に発生したエラーやエスカレーション事例を元に、OpenAIのコーディング特化モデル**Codex**がエージェントのコード改善案を自動生成する。チームはその提案をレビューし、テストした上で実装する。月次でエンジニアが手動でモデルを再学習させるような従来型のアプローチとは異なり、カスタマー向けエージェントがCodexによって継続的に改善され続ける構造だ。
※CodexはOpenAIが開発したコーディング特化の大規模言語モデルで、コード生成・補完・修正を得意とする。GPT-4やo3が汎用的な推論・対話を担うのに対し、Codexはソフトウェア開発タスクに特化した位置づけにある。
この「コーディングエージェントが別のエージェントを改善する」という構造は、現時点では珍しいアーキテクチャだ。
OpenAI自身が実証中:75%を人手なしで解決
OpenAIはPresenceを自社の英語電話サポートチャネルに適用している。エージェントは未解決の問い合わせ対応、本人確認、アカウント状況の確認、顧客承認に基づくアクション実行を担う。
同社の発表によれば、受け付けた問い合わせの75%を人間の介入なしに解決しており、このCodexドリブンの改善ループを導入してからわずか10日間で人間へのエスカレーション率を15ポイント削減したとしている。ただし、これらの数字はOpenAI自身が公表したものであり、第三者による検証は行われていない点は留意が必要だ。
「Presence」とは何か
Presenceは、企業がカスタマーサポート用AIエージェントを展開するためのプラットフォームだ。請求に関する問い合わせ、保険の申請処理、ITサポートチケットの対応など、企業内で発生する個別の業務タスクをAIエージェントが担う。
各エージェントは単一のタスクを担当する設計になっており、そのタスクに必要な知識と社内システムへのアクセス権を与えられる。エージェントが実行できるアクション、承認が必要なアクション、人間にエスカレーションするタイミングは、すべて企業側がポリシーとして定義する。
早期導入企業と展開方式
早期顧客として記事が挙げているのは以下の3社だ。
- BBVA(メキシコ):音声AIサポートの通常業務への統合を試験中
- SoftBank:日本語での自然な会話によるサポートのパイロットを実施
- IAG:悪天候などの高トラフィック時におけるカスタマーサポート対応を検証中
展開方法も従来のSaaSとは大きく異なる。Presenceはセルフサービス型のAPI提供を行っておらず、OpenAIのForward Deployed Engineers(FDE:顧客企業に常駐し、導入・カスタマイズを直接支援する専門エンジニア)と認定システムインテグレーターが企業ごとに直接導入を支援する。つまり、API課金で誰でも使える製品ではなく、コンサルティングファーム的なアプローチを取っている。これはAccentureやDeloitteのエンタープライズ展開モデルに近い。
課題と今後の注目点
信頼性と制御の担保がPresenceの設計思想の中心にある。リリース前のガードレール設定、エッジケースのシミュレーション、リリース後のヒューマンレビューを含むフィードバックループが組み込まれている。
一方で、金融や保険のような規制が厳しい業界での本番負荷下での動作が実際にどこまで機能するかは、まだ検証が必要な段階だ。Codexによる自動改善が誤った方向に最適化されるリスクや、規制当局が「AIがAIのコードを書き換える」構造をどう評価するかも、今後の焦点になるだろう。
詳細はOpenAI Presence explained: OpenAI's new platform for AI customer support agentsを参照していただきたい。