7月23日、CNBCが「Moonshot AI accessed Nvidia's chips despite Chinese export ban, White House official says」と題した記事を公開した。米国の対中輸出規制が存在するにもかかわらず、中国のAIスタートアップがタイを経由して規制対象チップにアクセスしていたとホワイトハウス高官が主張した件を報じたもので、AI開発をめぐる米中の技術覇権争いが新たな局面を迎えつつあることを示す事例として注目を集めている。
Moonshot AIとはどのような企業か
Moonshot AIは2023年に設立された中国のAIスタートアップで、大規模言語モデル「Kimi」シリーズの開発元として知られる。2024年には約10億ドル規模の資金調達を実施し、中国国内で急速に存在感を高めた企業だ。日本ではあまり知名度が高くないが、中国のAI業界では有力なフロンティアモデル開発企業の一つとして位置づけられている。
タイ経由でGB300チップを入手
ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)のMichael Kratsios局長は7月23日、X(旧Twitter)への投稿で、中国のAI企業Moonshot AIが「GB300搭載サーバーを取得し、タイでGB300にアクセスした。おそらくAIモデルの学習に使用したとみられる」と述べた。
NvidiaのGB300チップはBlackwellアーキテクチャの後継にあたる最先端GPU群の一つであり、依然として最高水準のAI向けGPUと位置づけられている。中国向けには輸出規制がかかっており、同チップの出荷は禁止されている。タイは規制の抜け穴として機能した可能性がある。
Moonshot AIはこの告発の直前の7月17日、新モデル「Kimi K3」を公開した。パラメーター数は2.8兆とされており、元記事によれば一部ベンチマークで競合するフロンティアモデルを上回る性能を示しているという。規制対象チップへのアクセスがこの性能に寄与していた可能性が、今回の問題の核心にある。
蒸留疑惑も同時浮上
Kratsios局長はさらに、「Moonshot AIがKimi K3の開発にあたり、AnthropicのClaudeモデルを蒸留(distillation)したという情報がある」とも主張した。
「蒸留(distillation)」とは、大規模な学習済みモデルから知識を抽出し、別のモデルにその性能を模倣させる技術だ。Anthropicは今年初め、自社モデルに対する「産業規模」の蒸留キャンペーンが展開されていると警告していた。
これを受け、財務長官のScott Bessentも同日、「中国企業が知財窃取に踏み込む規模の蒸留攻撃を行った場合、制裁やエンティティリスト指定(米商務省による取引禁止リスト)を検討する」とXに投稿した。
なお、チップの不正入手と蒸留疑惑はそれぞれ独立した主張であり、現時点では疑惑・告発の段階にとどまる。Moonshot AIによる公式な反論や確認は、本記事執筆時点では得られていない。
抜け穴をめぐる米中攻防
今回のMoonshot AIの件は、より広い構造的問題の一端だ。
- ByteDanceも今年3月、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、中国外でNvidiaの最先端チップへのアクセスを確保しようとしていたとされる。
- 米国は今年5月に中国10社に対してNvidiaのH200チップの購入を認めたが、トップ通商官は7月、実際に中国・香港に出荷されたのは「ごくわずか」だと述べている。
こうした状況に対応する法案として、Remote Access Security Act(RASA)が審議中だ。クラウド経由のリモートアクセスも輸出規制の対象に含めることを目的とした超党派法案で、今年1月に下院を通過し、現在は上院での審議を待っている。
シンクタンク「トニー・ブレア・インスティテュート」のKeegan McBride科学技術ディレクターは「中国が国内外で米国のコンピューティング資源を使っていることは周知の事実だ。これは米国がコンピューティングでいかに先行しているかを示している。米国のコンピューティング資源が今日のAI競争の基盤だ」とコメントしている。
一方、中国側はこれまでのCNBCの取材に対し、「根拠のない申し立てと悪意ある中傷に反対する」と述べている。
Nvidia、Moonshot AI、ホワイトハウスおよび中国大使館にはコメントを求めており、現時点で回答は得られていない。
詳細はMoonshot AI accessed Nvidia's chips despite Chinese export ban, White House official saysを参照していただきたい。