7月21日、CNBCが「The Fed rang the alarm about Anthropic's Mythos AI model」と題した記事を公開した。AnthropicのAIモデル「Claude Mythos Preview」が金融機関に対して前例のないサイバーセキュリティリスクをもたらす可能性があるとして米連邦準備制度(Fed)が警告を発したにもかかわらず、Fed自身が少なくとも3ヶ月以上にわたってそのモデルへのアクセスを取得できていないという事態を詳しく報じている。
Fedが警告を発したモデルに、Fed自身がアクセスできない
今年4月、当時のジェローム・パウエルFed議長(現在はKevin Warshが後任として就任)は財務長官スコット・ベッセント氏とともに、米国主要銀行のCEOたちを集めた異例の会合を開いた。議題はAnthropicが開発した「Claude Mythos Preview」がもたらすサイバーセキュリティ上のリスクだった。
Claude Mythos Previewは、ソフトウェアの脆弱性を高精度で自律的に検出・分析できるとされるモデルだ。この能力は金融インフラの防衛に活用できる一方で、悪意ある行為者が同じモデルを用いて金融システムの未知の脆弱性を大規模かつ高速に探索・突破しようとするリスクも同時にはらむ。Fedがとくに警戒したのは後者——つまり、規制当局がモデルの能力を把握・評価できないまま、モデル自体が銀行インフラへの攻撃手段になりうるという非対称なリスクだ。
AnthropicはこのモデルをProject Glasswingと呼ぶサイバーセキュリティ推進イニシアチブの一環として、約50の組織に限定公開した。Project Glasswingは、信頼できるパートナー組織と連携してAIを用いたサイバー防衛能力を研究・強化することを目的としたAnthropicの取り組みであり、参加資格が厳しく審査されることが限定公開の背景にある。JPMorganチェース、Amazon、Apple、Googleといった名前が公式に挙がっており、6月には参加組織を15カ国150超にまで拡大した。
ところが、その警告を発したFed自身はこのモデルへのアクセスを得られていない状態が少なくとも3ヶ月以上続いた。7月15日時点でも、Fedはまだアクセス取得に向けて動いている最中だったとCNBCは報じている。
Warsh議長の議会証言が状況を明らかにした
パウエル氏の後任として就任したKevin Warsh Fed議長は、先週の上院での証言でこの問題を認めた。
「私たちはアクセス権を決める立場にない。しかし、この脆弱性について政府内の当局に対して遠慮なく意見を伝えてきた。Fedだけでなく、他の機関についても、新しいAIモデル全般へのアクセスを要求してきた」
— Kevin Warsh Fed議長(上院Banking委員会、7月15日)
Warshは「Mythosだけの問題ではない」とも述べており、銀行システム全体として最新AIモデルへのアクセスなしに脆弱性の修正作業を始めることすら難しい状況にあると示唆した。この発言は、Fedが個別モデルの評価以前に、規制当局としての情報収集インフラそのものが機能不全に陥っていることを公式に認めたものと読める。
研究会社Futurum GroupのCEO、ダニエル・ニューマン氏は「金融機関全体のポリシーを決定するような機関が、新技術を評価する機会すら与えられていないとは驚きだ」とCNBCに語っている。
混乱の背景:輸出規制、政権交代、AIガバナンスの空白
状況をさらに複雑にしているのが、Anthropicとトランプ政権の間で生じた摩擦だ。
6月、Anthropicは連邦政府の輸出規制指令(国家安全保障を根拠としたもの)に従うため、Mythos 5およびより広く公開されていたFable 5へのアクセスを一時停止した。その後、商務長官のハワード・ラトニック氏が「信頼できるパートナー」に限定してアクセス復旧を許可し、最終的に輸出規制は6月末に全面解除された。
AIガバナンス体制自体も揺れている。AIおよび暗号資産担当のホワイトハウス高官、デイビッド・サックス氏は3月に辞任。Center for AI Standards and Innovation(CASI)の新所長クリス・フォール氏は、就任わずか3ヶ月で辞任したことをCNBCが確認している。誰がAI政策の実権を握っているのか、現時点では不透明だ。こうした指揮系統の空白が、FedのProject Glasswingへの参加交渉を誰が主導・調整すべきかを曖昧にしている側面もある。
中国モデルの台頭が外部圧力を加える
こうした国内の混乱と並行して、中国のスタートアップMoonshot AIが今月リリースしたモデルKimi K3が、一部のベンチマークでOpenAIやAnthropicのモデルを上回ったと報じられている。米国の規制当局や主要金融機関が最新モデルへのアクセスと評価を後手に回している間にも、AI開発競争のペース自体は緩まないという外部圧力を象徴するニュースだ。
サックス前高官はX(旧Twitter)への投稿で「KimiK3のパフォーマンスは懸念すべき水準だ。アメリカは自ら縛りをかけている。これがAIレースで負ける方法だ」と警告している。
Futurumのニューマン氏は、「Fedは他機関と比べてキャッチアップが必要な立場に置かれている。中国であれ米国であれ、技術革新のペースは容赦ない」と指摘する。
世界の金融インフラの頂点に立つ機関が、自らが警告を発したサイバーセキュリティリスクへの対処ツールを持てていない——輸出規制、政権移行、ガバナンスの空白が重なり合って生じたこの構造的な遅延が何を意味するかは、引き続き注視が必要だ。
詳細はThe Fed rang the alarm about Anthropic's Mythos AI modelを参照していただきたい。